2021年7月13日 (火)

 once ダブリンの街角で

映画 「 once ダブリンの街角で 」  2006年 アイルランド映画 (原題 :ONCE)

 監督・脚本:ジョン・カーニー   出演:グレン・ハンザード マルケタ・イルグロヴァ

 

「 ONCE 」、大作映画のようなクライマックスは無いけれど、いい映画です。
たぶん日本公開の2007年に劇場で観て、それからDVDになってからも10回以上観ている。

 

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映画の公開当時、今では廃刊になってしまったエンタメ情報誌「ぴあ」がまだ隔週くらいのペースで発行されてて、
展覧会や映画を観にいくのにけっこう重宝していた。
「ぴあ」にはよくよく見ると、限定のお得情報なんかが載っていて、この「once ダブリンの街角で」のときは
渋谷の上映館(名前忘れたけど、Bunkamuraの前のミニシアター)で
「チケット購入時にクリスマスソングを歌うと¥500割引き」というものだった。。 もちろん歌いましたよ。
「 once ダブリンの街角で、を1枚。 え~と 、クリスマスソング歌います!」
「はい、どうぞ」
「 ♪ 雨は夜更け過ぎに~ 雪へと変わるだろう~ ♪ 」 山下達郎の「クリスマスイブ」歌いました。
「 ♪ きっと君は来ない~ 一人きりのクリスマスイブ~ ♪」のあたりまで歌ったところで
「はい、結構です」と受付の方が言って無事割引してもらえたんだけど、ワンコーラスくらいは歌う気満々でした。
、、、でもその割引事情を知らずに僕の後ろに並んでた人は
「何、この馬鹿いきなり歌いだしてんだ!? 大丈夫か?」とか思ってたんじゃないだろうか。

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story :  ダブリンの街角で、穴のあいたボロボロのギターをかき鳴らしながら、思いのたけを歌う「男」がいる。
そこへ、花売りと家政婦で生計を立てている、チェコからの移民の「女」が現れる。
男は女の執拗な質問に辟易しながらも、彼女のピアノの腕を見込んで、一緒に演奏しないかと持ち掛ける。
他のバンドメンバーも集めてCDのレコーディングにこぎつけるのだが、、別々の道へ。

誰もが想像するような、ハッピーエンドではないけれど、とても後味のいい物語だった。


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主人公2人は俳優でなく、もともとプロのミュージシャン。
劇中の音楽の多くを占める生演奏、生歌が主人公たちの感情、心情を代弁しているようだ。
と言っても「ミュージカル映画」みたいに登場人物が唐突に歌い、踊りだすものではなく、とても自然だ。
 

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この映画は主要人物の多くに名前がない。 
それはたぶん「ONCE」というタイトルとも関係していて、
誰にでもある「かつて」の人生を投影できるということなのかもしれない。

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僕の知る人にこの映画を観て感動のあまり、ギターを買って歌いだした女性がいる。
その後どうしているかはしらんけど。

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ジョン・カーニー監督にはこの「ONCE」のあと、2013年に「はじまりのうた BEGIN AGEIN」、
2015年に「シング・ストリート 未来へのうた」。 

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「シング・ストリート」だけパンフレットがLPサイズに近いくらいでかくて正方形で、扱いと保管に困るが。

これらを音楽映画の3部作としてもこの1作目。
低予算感満載とかいう意見があっても「ONCE」。何度観てもすばらしいです。

追記:「男」に修理してもらう掃除機を室内のように転がしながらダブリンの街を歩くシーンが可笑しくて良い。

 

2021年7月 8日 (木)

アンモナイトの目覚め

映画 「 アンモナイトの目覚め 」 2020年・イギリス (原題 Ammonite)

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アンモナイトの化石に魅せられる人はたぶん多い。 僕の周囲にはあまりいないけど。
直径15mmほどの小さなものもいれると、僕も6個ほど持っているのでコレクターのはしくれと言えるだろうか。

何より美しい螺旋。こんな幾何学的ともいえる形状の生物が大古に海を泳いでいて、そのままの形で今、手のひらにあるなんて。

それから、たまにアンモナイトをスパッと縦にまっぷたつに切って内部が露になったそれを磨いたものがあるけど。
隔壁に区切られたそれぞれの小部屋に残った、体液やら海水やら砂やらが鉱物、化石化したもののなんと美しい。

そんなわけで、アンモナイトはよく銅版画などのモチーフにもしている。 
ちくちくと点や線で追っかけるのは性に合ってるので、描くものに迷ったらアンモナイトや鈴懸の実(プラタナス)はよく描く。
深みにはまると終わりがない。

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5月29日(土)に新百合ヶ丘のアルテリオ映像館で映画「アンモナイトの目覚め」を観た。

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主演はケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナン。

原題は「Ammonite」だけど邦題は「アンモナイトの目覚め」。
では何に「目覚める」のかというと、2人のヒロインの同性愛。

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若干13歳で魚竜の全身骨格を発見して評判を集めたが、(おそらく若すぎる女性だからか)忘れさられ土産物のアンモナイトを
収集して細々と生計を立てているメアリー・アニング(1799-1847)も彼女をロンドンに招待したシャーロット・マーチソンも
実在の人物だけれども、この2人が密かに愛しあうというストーリーはこの作品のオリジナルのようだ。

女性同士が惹かれあうテイストとしては「キャロル」とか韓国映画「お嬢さん」に近い。

ケイト・ウィンスレットを「タイタニック」でしか観たことがない人が見たら、このがっしりした体躯の人生に疲れた女性が
彼女だとわかんないんじゃないかな。
なんていうか映画「愛を読むひと」からの疲れた熟女感。

シャーロットを演じるシアーシャ・ローナンがただただ美しい。
後半の2人のベッドシーンがけっこう生々しくてちょっとびっくりですが。


映画の冒頭で寒々しい海岸で大きなアンモナイトの収まった岩を発掘したメアリーは岩場の斜面から滑り落ちて
せっかくのアンモナイトを割ってしまう。 
欠けたアンモナイトはメアリーの象徴なのだろうか。

発掘した岩を丁寧に丁寧に、根気よくクリーニングしてアンモナイトの美しい螺旋が現れてくる過程が
つまり「目覚め」と重なりあいます。

たぶん人によって捉え方が違うだろうラストシーンのその先を、
メアリーの選択は事実がどうであれ想像を搔き立てられる。

2021年7月 7日 (水)

「 コロナと潜水服 」 奥田英朗

最近読んだ本。

奥田英朗 「 コロナと潜水服 」

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表題作からわかりますが、昨年(2020年)12月の新刊です。


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サクッと読める5編の短編集。
ひとつめの「海の家」、その次の「ファイトクラブ」なんかは幽霊さん?が出てくるので「ホラー」と捉える人もいるかもしれないけど、
読後感のよいファンタジーです。
鬱屈した男たちが、人を殴る、殴られる、闘う、という高揚感に衝かれる、さらに現実と幻覚が混在するという「ファイトクラブ」は
同名のブラット・ピット主演の映画とちょっと共通項もみたりした。 結末はぜんぜん違うけど。

「コロナと潜水服」。この旬なタイトルを本の表題にするのは上手いなあ。
自分が感染したかもしれない不安、家族に感染させないために防護服の代わりの「潜水服」。。
幼い息子にせがまれてそれを着たまま散歩にでる。怪しい人がいると通報される。 必死なぶん滑稽だけどあたたかい話。

個人的に一番良かったのは5話めの「パンダに乗って」。
「パンダ」はイタリアの小型車「フィアット・パンダ」。初代は1980年デビュー。
ずっとこの車が欲しかった男は都内から新潟の中古車店にいく。
無事に車を受け取り帰路につこうとするが、パンダは最初のオーナー(故人)の記憶を持っていた。
ナビの指示のまま新潟市内を走ると、オーナーの思い出の場所を辿り、彼の人生を追体験することになる。

僕もパンダではないけれど、以前1969年式、それから1963年式のフォルクスワーゲンに乗っていたことがあって
旧いクルマは手をかけてやっていると、ココロをもつのではないか、などと思ってしまうこともあったりして。

旧車乗りには鼻の奥がツンとするような物語でした。

次は同じ作家の長編犯罪小説を読んでみる。

2021年6月 3日 (木)

 検察側の証人

ミステリーの女王アガサ・クリスティーの裁判劇「検察側の証人」。

  (何年か前に「検察側の罪人」っていう日本映画が公開されたけど、観てないけど
 きっとタイトルは「検察側の証人」からとってるんだと思う。)

もとは短編小説として書かれた「検察側の証人」(短編集「死の猟犬」に収録)を
クリスティー自身が戯曲(舞台劇の台本)として場面設定を弁護士事務所と裁判所に絞って書き改めた。

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さらに1957年にビリー・ワイルダー監督で映画化された。モノクロ。 邦題「情婦」。

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最初の短編と戯曲版では実は結末が違っていて、戯曲にはもう一回「どんでん返し」がある。
短編の結末が覆される。
映画版は戯曲の結末を採用していて「映画史上に残る衝撃の結末」というのはこれのこと。

この映画以前に伊集院光のラジオで翻訳家の戸田奈津子が「とにかく面白い」と推してたけど。、、多少不満が残る。

まず邦題の「情婦」。意味わかんないです。
原題 " WITHNESS FOR THE PROSECUTION " の直訳で小説のタイトルの「検察側の証人」をそのまま採用しなかったのか。
そのほうが、一目で裁判劇だとわかる格調の高さがあるのに。
たぶん当時の配給会社が下世話な感じの「情婦」のほうが客を呼べると目論んだのか。
でも誰が「情婦」なのかわからん。被告の妻なのか、殺された金持ちの未亡人なのか、最後に出てくる若い女なのか。
、、、やっぱり「情婦」は変だよ。

あとキャストも当時の人気俳優のタイロン・パワー、大女優のマレーネ・ディートリッヒなんだけどそれもちょっと違う。
原作だともうちょっと若い、金持ちの未亡人をたぶらかすチャラい男のイメージだったから。

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今年の2月にNHK BSで20日と27日の土曜の夕方、前後編2時間にわたり「検察側の証人」が放送された。
これは映画「情婦」よりずっと原作のイメージに近くて良かった。
制作年はわからないけど、たぶんここ5年以内に作られたものではないか。

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弁護士役は見たことあるなあ、と思ったらトビー・ジョーンズだった。
「ジュラシック・ワールド 炎の王国」で恐竜を売りさばく悪の商人だった。腹黒い役まわりが多い印象。

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僕的にはぴったりの配役。
最新技術の美しい映像。ただ綺麗じゃなくて第一次大戦後のロンドン、霧の中の湿っぽさと罠。

結末は映画「情婦」と違って、もとの小説版に近い。法廷のどんでん返しな無い。

けど、法廷の場面で終わらず、数か月後のリゾートに訪れた南フランスでトビー・ジョーンズ演じる弁護士は
残酷な真実を知ってしまう。

いちばん悪いものがすべて手にいれて、騙されたものは無実の人に罪を着せてしまったことに深い悔恨にかられる。

原作にない亡くなった息子、失った妻の愛情とか、まったく救いのない絶望の結末。

でも良かった。 遠浅の海岸をとぼとぼ沖に向かって歩くラストシーンは秀逸。

 ラストシーンの最後まで忘れられない映画は僕のなかで傑作ということになっている。

  

 

 

 

 

 

2021年6月 2日 (水)

「 花のようなひと 」 

この本はBOOK OFFでたまたま見つけて買った。

「 花のようなひと 」  佐藤正午  牛尾篤[画]

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「月の満ち欠け」と同じ小説家・佐藤正午さんの本。 銅版画の表紙に惹かれた。

版画家・牛尾篤さんをこの本を手にとるまでよく知らなかった。

本書は2冊の単行本「花のような人」と「幼なじみ」を合わせて1冊の文庫本になっている。
どちらも牛尾篤の挿画がたくさん添えられているので「画集」といってもいい仕上がり。

前半の「花のようなひと」は女性の日常のなんてことない心象風景を花に託して紡いだ28篇ショートショート。
 「ショートショート」は短編よりもずっと短い、ページ数で2~5ページ、1~3分くのらいで読めてしまう掌編、小話。
  中学くらいの時は星新一のSFっぽいショートショートが流行っていた。

1作品がだいたい3ページ。 2ページの本文に1ページの銅版画。それが28編。

 

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この銅版画、ぜんぶカラー印刷でサイズは大きくないんだろうけど、けっこう手が混んでいる。

色彩は、たとえば山本容子さんのブックワークみたいにエッチングの線描に水彩絵具の手彩色じゃなくて
少なくても2版以上刷り重ねてると思うんだな。

黒く太くてささくれだった線はエッチングじゃなくてたぶんドライポイント。
それをもう1枚の板に転写して、アクアチントで粒子感のある色面を作って、2~3色を分けて詰めて刷って。
これを佐藤正午の短い物語のイメージで28枚。
単行本の出帆の際には予備、未収録も含めた30点以上の版画展も開かれたそうだ。 
 これはちょっと見たかったな。

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文庫本の後半の短編「幼なじみ」は「花のようなひと」の4年後。

銅版画の挿画のハードワークとコストと時間がさすがに堪えたのか、こちらは透明水彩で描かれた。

1冊の文庫本に合わせて収めてあると、水彩の滲みもきれいだけど、
比べるとどうしてもふわふわと弱い印象になってしまうなあ。

たぶん文庫サイズの窮屈さもあると思う。

 

2021年6月 1日 (火)

「 月の満ちかけ 」   佐藤正午

小説家・佐藤正午(さとうしょうご)の下の名前の読み方をこの本を手に取って巻末の作家紹介の
ふりがなを見るまで、何故か「まひる」だと思っていた。 
たぶん女優の「紺野まひる」が頭にあったからだと思うんだけど。

「 月の満ち欠け 」  

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2017年の直木賞受賞作を2019年に文庫化したもの。
「岩波文庫的」とあるのは誤植ではなく、
もとは「岩波文庫で」というリクエストだったのが、(古典が中心の岩波文庫には)「無理です」ということで
「ダメなら岩波文庫風の装丁で」とういことで「岩波文庫的」にだしたという。
なので「岩波文庫的」はこれ1冊のみらしい、いまのとこ。

それはいいんだけど「岩波文庫」ってほぼほぼ必ず作家名の「作」とか「著」とかつけてあるでしょう。
スペース空けないでくっつけてるから「~作」までが名前なのかと思ってしまいそうになってとても紛らわしい。
、、と思ってるのは僕だけかもしれないけど「岩波文庫的」にそんなとこまで寄せなくてもいいじゃん、と。

ちなみにこういうことです ↓  やっぱり変。旧式の装丁って。

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この作家の本は初めて読んだ。一気に読んだ。
文庫だと表紙にざっくり話のスジが載ってるので、うっかりそれを目にしないほうがもっと面白かっただろうけど。

物語の中のリアルな時間は東京駅のステーションホテルのカフェでの午前11時から午後1時までの約2時間。

青森から「はやぶさ」に乗って上京してきた初老の男が、そこである親子、母親と小学生の女の子と面会する。
その青森の男と初対面の七歳の女児のおかしな会話の導入部から

次に彼自身の若いころ20代くらいの回想に繋がり、さらに亡くなった彼の娘の前世(?)にまで遡って、物語が立体的に見えてくる。
、、、なので表紙の文をみないで、まっさらの頭で本文に入ったほうが面白かったんだろうけど。。

「月が欠けてはまた満ちてくるように」人は何度も生まれ変わるのか。

輪廻転生を描くとなんだか禍々しいオカルトのようだけれど、違います。

2時間の回想のなかで現在、過去さらに過去から未来と行きつ戻りつ繋がり、
生まれかわりは全然関係ないようで、そうでもなく。
ある年齢になると前世の記憶がよみがえる、。。 オカルトみたいだけど。

ただ、その生まれ変わる彼女のおおもとがそれほどの大恋愛かと、何度も転生を繰り返すほどに深いものかいうとそうでもないような。
その執念のために幾人か亡くなったり、破滅したりとたいへんなことになったりと。

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2度目に読んだときは、時系列どおりにページを辿った。 すべてわかって読んでなお面白かった。

 身勝手な女の執念か、一途な愛の軌跡かは読む人次第。 

                               ・

「月の満ち欠け」はまだ映画化の企画はないのかな。

2時間ちょっとにちょうど収まりそうな物語で、時々勝手にキャストを考えている。

 

 

 

   

  

 

 氷の花火 山口小夜子

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映画 「氷の花火 山口小夜子」  監督:松本貴子 2015年

 

伝説のファッションモデル、山口小夜子のドキュメンタリー映画。

この映画が作られたきっかけのひとつが2015年4月~6月の東京都現代美術館での
「山口小夜子 未来を着る人」だったそうだ。

 

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この展覧会も彼女の仕事の軌跡を追うすばらしいものだった。
とくに40年くらい前の資生堂のCMの映像集とか。
ひとつひとつが短い映画ののような、映像作品としての完成度。

 

映画「氷の花火」は、生前の彼女と親交のあった人々の証言と超貴重な映像の数々(インタビュー映像も)を綴りながら、神秘と謎に包まれた山口小夜子の姿が少し見えてくる。。

 

横浜の「ジャック&ベティ」で没後10年の追悼上映が2018年の5月にあり、そこで最初に観たのが忘れられず、もう一度観たいと願っていたところ12月3日に青山の「スパイラル・ホール」で特別上映があった。他の短い映像とトークショーもあって、それでチケットも¥3000とちょっと高かったけれども、青山まで観にいった。

 

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そのときのロビーに飾ってあったポスターなど。

 

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山口小夜子さんはな存在だった。
たぶん話している姿も、僕はこの映画で初めてみたんじゃないだろうか。

 

彼女が発した言葉のひとつひとつを覚えていないのだけれど、

「私の仕事は歩くこと、歩いていると躓いたり、何かに気づいて立ち止まったりすることもあるけれども、、私らしい大事な仕事だと思っています、、、」

、、、僕の記憶が正確ではないけれども、歩いていると躓いたり、風にあおられたり、道を見失いそうになったりするかも、また前を向いて颯爽と歩く。
、、そうだよなあ、誰だって と僕は受け取った。

 

映画のエンドロールのあと、最後に2007年に肺炎で亡くなる前年、生涯最後のパリコレの映像が流れる。
ランウェイから姿を消す直前に、彼女は2回振り返った。
それが最後だと誰も、本人も知らなかったはずなのに。
静かに幕の向こうに姿を消して、そこで映画が終わる。 その場面が忘れられない。

 

何度も繰り返し観たい。 この作品のDVD化を切に願っている。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年5月24日 (月)

赤い蠟燭と人魚

先日、立川の「PLAY! MUSEUM」に「酒井駒子 展」を観に行った時、とくに気になった絵本があった。

それが「赤い蠟燭と人魚」。

会場には原画の展示と物語の解説が表示されていて、ざっくり説明すると、、、

《 北の冷たい海の人魚が、生まれた赤ん坊の幸福な暮らしをねがい人間に預けることを決意する。
 ある晩、蠟燭売りの老夫婦が人魚の赤ん坊を拾い大事に育てる。
 人魚の娘が赤い絵の具で絵を描いた蠟燭は海の安全を守る不思議な力を持っていた。
 けれども、香具師(やし・見世物などの興行主)にそそのかされた老夫婦は金に目がくらんで人魚の娘を売ってしまう。
 鉄格子の箱に入れられて娘が連れていかれた夜、人魚の母の復讐が始まる、、、》


復讐! およそ童話らしからぬ題材にグッときた私はこの本があったら買おうと思って出たが、
残念ながらミュージアムショップにはその日無かった。

  (「復讐物」は映画でも好きなジャンル? である。
   パッと思い浮かぶのはレオナルド・ディカプリオの「レヴェナント 蘇りし者」。
   復讐を果たすために生きるという狂気。 僕自身はいまだ復讐をしたことはないが。)

帰宅途中の書店にもなかったので、帰ってからAmazonで検索する。
 (書店の絵本コーナーに、知り合いの出久根育さんの本があって「おっ!」て思った)


童話作家・小川未明(1882-1961)の「赤い蠟燭と人魚」は2002年初版の「酒井駒子版」と、

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1975年初版の「いわさきちひろ版」があった。 比較してみたく、両方とも取り寄せた。

 さらにみると様々な画家が挿画を描いている。ただ画家の名前が童話作家と同等に表記してあるのはこの2冊がまず出てくる。

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ちなみにこの小川未明と、ちょっとエロい漫画も描く さかもと未明とごっちゃになってました。 すいません。

さらに小川未明が男性だというのも知らなかった。
「いわさきちひろ版」の解説を書いた作家の次女の著書に「父 小川未明」とあった。

「いわさき版」は童心社の「若い人の絵本」というシリーズで、文章もちょっと多く漢字にふりがなもなくあまり小さい子供向けではない。
「蠟燭」なんて難しい漢字使ってるし。 手書きでパッと書けそうにない。

この本は1974年8月に亡くなった いわさきちひろの未完の絶筆になった。
それでこのために描いたラフスケッチや習作が多く載せてある。
彼女はこの作品に懸ける意欲ななみなみならぬものがあったらしく病をおして日本海の海岸にスケッチ旅行まで行っている。
ああ、でも残念なことに未完。たぶん、ほとんどを水彩で描かれるはずだった挿画は柔らかい鉛筆の習作も多く
全ページがモノクロ。冒頭の水彩で描かれた と思われる荒れる海と月の絵とか、
いくつかはカラー印刷にしてくれてもいいのにとも思ったが。


「酒井駒子版」はこの画家の黒下地から描く手法が、北の暗く冷たい海や哀しい人魚の物語を際立たせて
完成度の高い1冊だと思う。

ま、ハッピーな物語ではないので、というかなにしろ「復讐」
  あんまりちいさい子にはおすすめ出来ないかもしれないけど。。

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2021年5月21日 (金)

酒井駒子 展

 みみをすますように 酒井駒子 展  2021年4月10日~7月4日

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「南薫造 展」観に東京ステーションギャラリーに行ったら、このチラシがありまして
4月24日土曜に立川の「PLAY! MUSEUM」に行ってきた。

立川に行くのは「山下達郎シネマライブ」を観に「極音上映」の「立川シネマシティ」に行って以来だから
7,8年ぶりくらいになるんだろうか。 ということをシネマシティの前を通って思い出した。

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酒井駒子さんは20冊以上の絵本を出版している絵本作家で、
絵本のコーナーがある書店ならどこでもいつでも数冊はそろっている。
その方面に興味がある人なら、名前を知らない人のほうが少ないのではないだろうか、
いや、絵描きの名前を覚えてなくても、黒い下塗りの上に描かれた静謐な絵をどこかで見て覚えているのでは。

この方、ご自分の姿をおもてに出さない主義の作家のようで、例えば雑誌にインタビュー記事が載ったり
文章を載せたりしても、本人の写真が掲載されることはない。アトリエの写真が撮影されてもそこに作家は写さない。
たぶん、親しい友人とか、出版関係者とかしか本人の姿を知らないんじゃないだろうか。
僕も1ファンなので、ご本人がどういう人か知らないもん。
たぶん展覧会会場にいてもだれも気が付かないだろうな。
どっちかというと女性の画家のほうがそういう主義を通す作家がいて、
同じ絵本作家のヒグチユウコさんとか、日本画家の國司華子さんとかも僕は作品集もってるけど
画家のポートレート写真は載ってない。
自分はそこにいなくて作品だけがある、それだけを見てほしいという潔い姿勢は僕は好感を持っている。

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 展示室内は過去に出版した絵本の原画などは撮影可。
  (ただしフラッシュは使用不可。)

 今回の個展のために描かれた新作のエリアは撮影不可でした。


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絵本の原画が主なので作品のサイズはちいさめ。 その展示方法が面白い。

壁面を板で覆ってその中にはめこんだり、森をイメージするような柱の中に絵をいれたり
ふつうに額装したほうが、よっぽど手間もかからず早いようなきがしますが。

深みのある色調は黒い下塗りを覆うように不透明水彩かアクリル絵の具で描いたもの。

館内は混雑をさけるため、多少入場制限があるかもしれないが、そのぶん1点1点じっくり観られます。


ちょっと値段が高かったが、図録を買った。
絵本25冊から絵だけをぬいて収録した分厚い1冊。

   なにしろ、、立ちます!


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絵本の物語の概要を読みながら、ひとつ欲しい本があったのだけどミュージアムショップにはなかったので後日取り寄せることにした。

                               ・

今確認したのだけど「酒井駒子 展」は僕が観に行った翌々日から緊急事態宣言に伴い「当面の間 休館」になってしまっていた。

ま、期間が7月4日までだから、このまま終了とはならないと思うけど。

                               ・

追記:立川からの帰りに初めて「多摩モノレール」に乗った。

モノレールの街を見下ろす視点っていまさらながら良いなあ。

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レールがひとつ(モノ)だから「モノレール」なのか。

この歳になって、誰でも知っているだろうことを気がついた。

 

                                                                                       ・

追記: 本日6月1日より「酒井駒子展」展示再開されています。

 

 

 

東京ステーションギャラリーの赤煉瓦

昨年、今年と東京駅構内にある「東京ステーションギャラリー」に行くことが多い。

2019年の夏 オランダの画家 「メスキータ 」展。 日本では無名だけどあの「エッシャーの師匠」とされる画家。
この展覧会のカタログを見返したら序文のタイトルに「ハンカチなしでくしゃみをするな」とあって、
この時はまだCOVIT-19は発生していないのに、まるで翌年のコロナ禍を予言しているようだ。

2020年は「神田日勝 大地への筆触」、これは2回行った。
それから11月に、幕末から明治初期の絵師、河鍋暁斎の「河鍋暁斎の底力 Drawings of KYOSAI」これも2回行った。

今年は4月に「没後七十年 南薫造」展。明治末
から昭和に活躍したこの画家も一般にはそれほど知名度高くないけど、広島以外では初めての大規模な回顧展。


いい美術館の条件のひとつが「いい美術作品を所蔵していること」だとすると
「東京ステーションギャラリー」は所蔵作品はほとんど無いから、美術館というよりただの「企画展示会場」だと思うけど。

でも駅からのアクセスはめちゃくちゃ好く、なにしろ丸の内北口改札でて徒歩15秒くらい。

で、その東京ステーションギャラリーで展示作品以外で毎回楽しみに、じっくり鑑賞しているものがある。

行ったことがある人ならわかるんだけど、ここは受付通るとまずエレベーターで4階まで上がって、
順を追って観ていくごとに、展示室を3階、2階と階段で降りていく。
 (足の不自由な方は専用のエレベーターもある)

その階段の壁面の煉瓦だけが、1914年の東京駅創建時の「オリジナルレンガ」だ。

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重要文化財のおよそ100年前の煉瓦の壁面がその気になれば、手を伸ばせば触れられるほどなんだけど
決して触れてはいけないのです。僕も階段を下りながらこうして写真を撮るだけで触ったことはないです。

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よくよく見ると剥がれた煉瓦のしたに、たぶん創建時の職人の付けたスミ(位置取りの印の線)とか
焼け焦げた角材の柱とか剝き出しになってて、これらは震災も戦災もくぐり抜けて、ここにあるのだなあとグッとくる。

なんならこの煉瓦の壁がステーションギャラリーの所蔵美術品だと言ってもいいくらい。

                              ・

1993年11月3日から1994年1月30日まで東京ステーションギャラリーで「バルチュス展」が開催された。

ちゃんとした美術館でなく、なぜに東京駅? と思ったものだが、
これは当時85歳のバルチュス本人の強い希望だったのは知る人ぞ知る裏事情。

何で読んだのか忘れてしまったけど、その何年か前に会場の選定のため来日していた画家は「建物」にこだわっていた。
あまりモダンな建築は好まなかったのだろうか。
東京駅をでたバルチュスはふと駅を振り返って「ここに素晴らしい建築があるではないか。この中に美術館はないのか?」
、、あったんですね。 
バルチュスが見た東京駅が赤煉瓦の「丸の内口」でなく「八重洲口」だったら、バルチュス展はなかったと思う。

バルチュス本人の希望だと聞いた東京駅とギャラリー関係者はさぞ驚いただろうな。

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赤煉瓦の壁に掛かる静かな油彩画。これが生前の日本での最後の大規模な展覧会になった。

死後の2014年に上野の東京都美術館で開催された「バルチュス展」と内容がちがう1993年の図録はいまでは貴重品です。

 

2021年5月19日 (水)

神田日勝 展

もう20年以上まえになると思うけど、家で取っていた新聞の日曜版で「名画」を1面まるまる使って紹介していた。

週ごとの「1枚」は古今東西の誰もが知っていそうな「巨匠」と呼ばれる画家の作品が多かったけど、
その反面、この紙面で目にしなければ知ることはなかっただろう僕的には「無名」の画家の作品も時々載って面白かった。

神田日勝(1937-1970)の作品を初めて見たのは、その日曜版の紙面上。

 それが「室内風景」。 1970年だから亡くなった年の作品だ。

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新聞紙面に、新聞紙を貼りめぐらした小さな部屋で膝を抱える男を描いた絵で不思議な感じ。

作家についての短い解説文を読むと、もともと東京生まれだが北海道に渡ってからは農業のかたわら独学で制作を続けたと。

神田日勝の「室内風景」が載った新聞の1ページは何年か大事にとっていたんだけど、いつの間にか失くしてしまった。

                              ・

2年前、令和元年前期のNHKの連続テレビ小説(朝ドラ)は広瀬すず主演の「なつぞら」だった。

北海道・十勝でヒロインの幼馴染として出てくる東京から入植してきた貧しい農家の絵に情熱を燃やす
「山田天陽」君のモデルが「神田日勝」だとすぐにわかった。 名前のイントネーションも似てるし。

                              ・

そして「 神田日勝 台地への筆触 」展・東京ステーションギャラリーである。

ドラマ放送後のタイムリーな時期だけど、展覧会の企画自体は朝ドラより前からだったらしい。


コロナ禍のなか、東京ステーションギャラリーではこの展覧会から、
受付でのチケット販売はなくなりローソンチケットの事前予約の日時指定券になった。 
これは、いいと思う。 知らずに当日窓口でチケット買うつもりで来た人はちょっと気の毒だけど。
その時間帯に余裕があっても、窓口ではチケット販売はしないで、それでも駅の外のローソンでチケット発券してもらうようだ。
土日祝日でも日時予約なら、混雑に遭わずに鑑賞できるので良い。
あえて不満をいうなら、コンビニの発券だとチケットのプリントデザインが味気ないくらいか。

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そんなわけで、新聞の日曜版で1枚の作品とであってから20数年。
初めて神田日勝の絵を直接観ることができた。 2週間おいて2回観にいった。

北国で農業に勤しみながら、意外にも国内外に絵画の潮流の影響を受けて飲み込んでいった様子も。
原色の絵具をぶつけたような、なんていうのかフォービスム(?)っぽいのも僕はすきだ。


油彩画のうち半分くらいの作品がキャンバスでなく、ベニヤ板に描かれている。とくに150cm以上の大作がそうだ。
ベニヤ板に描く利点がよくわからないけど、キャンバスが調達しにくい、高価で買えなかったとかいうことだろうか。
「なつぞら」の天陽君もベニヤ板に描いていた。

未完の半身の《馬》が絶筆。何の下地も施していないベニヤ板に黒い《馬》が
頭から肩、前足、胴体と順番にほぼ完成されていって、尻の途中でぷっつりと途切れている。

他の作品を見てもこんなふうに、最初から部分を順番に完成させていって繋げるような描き方はしていないように見える。

たぶんこの「馬」を描くときに日勝は自分の命がもう永くない、
死期が近い、数日後にも明日にも、って悟っていたんだろうか。
ぜんぶ描ききれなくても何らかの形を残したい、と思って馬の頭だけでも半身だけでも、と描いたんだろうか。
そんなことを考えてしまいました。

                              ・

1回目に行ったときにポストカード。
神田日勝の作品がまとまったものはあまりないので2回目に行ったときに展覧会の図録を買った。

でも、このカタログが残念だった。資料とか解説は充実しているけど、作品図版の載せ方が。

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日勝の大作は横構図のものが多いのだけれど、それの多くが見開き2ページで掲載してるのだ。

うーん、これはダメでしょう。ちょうど絵の真ん中あたりがページのつなぎ目あたりにきてる。
カタログなのに作品全体像が正しく載ってない。 グイっと広げると本が傷む。

例えばこの《馬(絶筆・未完)》現物を目の前で観るとちょうど真ん中でベニヤ板を継いであって、
骨組みの木材にベニヤ側から釘が打ち付けてあって、それがちょっと錆びていたりして。
その「釘」を神田日勝自身が打ったものかどうかは知らないけれども、それも含めて作品なんですよ。

だから横構図の大作でも余白が大きくなっても1ページで載せるか
あるいは大きく載せるなら、図版を横にするかしかないのだ。

その少しあとで中古で買ったアンドリュー・ワイエスのカタログはそのようになっていたし、やっぱりそこだけ残念。


                             ・

つらつらと書いてしまいましたが展示じたいはとても良かった。

音声ガイドは機器を貸し出すのではなく、客が自分のスマートフォンとイヤホンで館内の無料Wi-Fiを使って聴くシステムだった。
無料というのも良いが、このご時世(消毒しても)他人が使ったかもしれない機器よりも
今時スマホとイヤホン多くの人が持ってたりするから、それで利用できればいいでしょう。無料だし。
ほかの美術館も音声ガイドがこのシステムになればいいのに、と思いました。

 

2021年5月 3日 (月)

関根正二の絵

昨年、2020年の展覧会ですが「神奈川県立美術館 鎌倉別館」で2月1日から

僕の好きな画家の「関根正二 展」が開催されていた。

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これは2020年3月2日の新聞の紹介記事。 

しかしその数日後、会期終了を待たずして展覧会は打ち切り、終了となっていた。 
ちょっと心配になって、鎌倉に観に行く前日に電話して問い合わせたのだった。まったく残念。

その理由は新型コロナウィルスの感染拡大を危惧してのもの。
1度目の「緊急事態宣言」は4月だったけど、美術館側の自粛だった。
その後、あちこちの美術展は日時予約制のチケットをオンラインで購入というシステムになった。
いま同じ展覧会を企画したら、おそらくそのようにすると思う。

なにしろ関根正二の展覧会なので観たかったけど、図録だけでも通販で購入できないか、ということで送ってもらった。

 

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享年20歳の夭折の画家、関根正二のたぶん実働4,5年の制作期間の作品のデッサンや小さなスケッチもふくめたほとんどと
書簡(手紙)などの資料、それから村山槐多らの同時代の関連作家の作品も掲載された内容の濃い図録になっている。

展覧会のカタログは普通、その画家の展示作品しか載っていないけど、この関根正二はほぼ全貌を見渡せて見ごたえがある。
届いてから、美術館に連絡してブログやツイッターへの画像掲載の許可をいただいたので、少し中身を紹介します。

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この朱色の着物セルリアンブルー(?)のバックの「子供」という絵は東京の「ブリヂストン美術館」所蔵の、おそらく最後の油彩作品
とされている。僕はとても好きな絵で関根の絵は実際に実物を観たのはこの作品だけだけど、これを観るためにたびたびブリヂストン美術館
に通った。 今は美術館を建て替えて「アーティゾン美術館」と名称も変わりましたが。


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「上手い」かと訊かれるとそうでもないような気もするけれども、人生の深淵を見つめるような彼の絵は素晴らしいと思う。


1919年に関根正二は20歳で、村山槐多は22歳で、その前年にウィーンでエゴン・シーレは28歳で亡くなった。

いずれも当時猛威を振るった「スペイン風邪」がもとで急逝したらしい。


その「夭折の天才」の全貌を現した展覧会が、いま猛威を振るっているコロナウィルスの感染拡大で中断、終了となってしまったのは
何とも皮肉だなあ、と思う。

 

2017年11月23日 (木)

 ギルバート・グレイプ

映画 「 ギルバート・グレイプ 」 1993年 アメリカ映画

監督 : ラッセ・ハルストレム

出演 : ジョニー・デップ、レオナルド・ディカプリオ、ジュリエット・ルイス

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この映画は20年近くまえに、友達に教えてもらって以来、VHSテープ、DVDでたぶん15回くらいは観ている。 スクリーンで観たことはない
パンフレットは初めて観てから、たぶん2,3年後に神保町の古書店でたまたま見つけた。
44ページもあって、巻末にシナリオ採録も載っていて、なかなかの充実度。

ジョニー・デップとレオナルド・ディカプリオの共演作。 たぶんほかにないんじゃなかろうか。

この作品でジョニー・デップは主人公のギルバート・ブレイクを演じている。
舞台はアメリカ、アイオワ州の田舎町「エンドーラ」。 「音楽 のないダンスのような町」とギルバートは言う。
「10歳まで生きられない」と医者に宣告された知的障害のある弟、アーニー(レオナルド・ディカプリオ)は、もうすぐ18歳になる。
父親が17年前に首吊り自殺でこの世を去ってから、母親は自宅のソファで一日中テレビを見ながら食べ続け、脅威的に太ってしまった。
姉のエイミーとともに家族を支えるギルバートはこの町からほとんど出たことがない。

ギルバートは田舎町の地味な暮らしを送る青年で、のちのジョニー・デップの主演作、「パイレーツ・オブ・カリビアン」のジャック・スパロウや「スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」と同じ人物とは思えない。

華奢な体、長い手足で予測つかない行動のアーニーがすばらしい。 レオナルド・ディカプリオって最初からすごかったんだなあ。 最近作の「レヴェナント 蘇えりし者」でがっつり肉つけた顔と体で、髭ボーボーで、クマに襲われて半殺しの目に遭って、復讐に燃えて土の中から這い出る「ヒュー・グラス」と同じ俳優とはとても思えない。 「レヴェナント」も好きな映画だけれども。

若いころのジュリエット・ルイスが演じる、旅人のベッキーもすばらしい!
この作品で彼女のファンになった。  
、、最近のお姿はこのころとはずいぶん変わったけども。。

                         ・

ジョニー・デップ、レオナルド・ディカプリオの最初で最後(?)の共演の大傑作「ギルバート・グレイプ」だが、実をいうと僕はスクリーンで観たことがない。
そんな機会はいつかあるのだろうか、、、
、、、 と思っていたら、それが来年上映されるんですね。

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「午前十時の映画祭 8」で来年2月にデジタル上映される。 
朝10時の上映だけれど、料金一律¥1100はうれしい。

      http://asa10.eiga.com

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なんと、「ペーパームーン」 、「バクダット・カフェ」もやるんだなあ。 

何度も観てる映画だけれどもね、これは楽しみです。

 

2017年9月 1日 (金)

 デッドマン

映画 「 デッドマン 」  1995年アメリカ映画 

監督・脚本 : ジム・ジャームッシュ

音楽:ニールヤング

この映画は公開当時、日比谷シャンテで2回観た。
いまでも年に3回くらい観ている。

主演のジョニー・デップが銃口を向けたDVDジャケットのせいですかね、レンタル店のTSUTAYAとかだとこの作品は「アクション」の棚にあったりする。
西部劇の世界だけど、アクション映画と呼べるほどの激しい銃撃戦のシーンはほとんどないので、ちょっと違和感。

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19世紀後半のアメリカ大陸、東部の街からやってきた青年紳士ウィリアム・ブレイクが心臓の脇に銃弾を受けたまま西へ西へと逃亡の旅を続けるロードムービー。

彼を助けるインテリのインディアン「ノーボディ(誰でもない)」は、ブレイクの名前を知ると、何故だか何十年も前に死んだイギリスの詩人ウィリアム・ブレイク本人だと思い込んでしまう。「デッドマンだ!」。 

この監督の映画にしては、少々残酷なシーンもあるにはあるけれども、白黒の映像がとにかく綺麗です。 

徐々に弱って身体で「デッドマン」に近づきながら、やがて海に辿り着く。
朦朧とした意識の最期の旅はひとり小舟に乗って太平洋を漂う。

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この映画「デッドマン」で何よりも好きなのが、実は音楽。

ニール・ヤングの全編ライブ。 ほとんどエレキギター1本の即興演奏(歌ってない)。
この映画全体がニール・ヤングのギターのPVだといってもいいくらい。
正直ものすごく上手い!、というほどではないと思うけど、早すぎない旅に寄り添うような、重く歪んだ、心にどーんと残るちょっと忘れられない演奏。
最初、劇場で観たときに「こんな映画音楽もあるんだ!」と感動したのをいまでも覚えている。 サントラCDが出たらすぐに買いました。
 素晴らしい。

「デッドマン」はジョニー・デップ出演作ではもっとも好きな作品のひとつだ。

「 ニホンオオカミは消えたか? 」

「 ニホンオオカミは消えたか? 」 宗像充 [著]

オオカミに惹かれる人は多い。
ギラギラした野生、媚びない生き方の象徴だったり、美しい姿や面構えだったり。


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「ニホンオオカミは消えたか?」は100年以上前に絶滅したとされる日本固有種のオオカミの正体を追うノンフィクション。
2017年1月初版発行で、ニホンオオカミ関連の書籍ではもっとも新しい本だ。 
著者の宗像充氏は1975年生まれのジャーナリスト、、あ、年下じゃん。。

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2012年2月にNHKで「見狼記」というドキュメンタリー番組が放送されて、たまたま僕もそれを観た。 各地に伝わるオオカミ信仰や、今もニホンオオカミの存在を信じて探している「オオカミに憑りつかれた人」に取材したりと、面白い内容だった。 
それまでオオカミというと「タイリクオオカミ」だと思っていた僕も、それよりすこし小さいとされる「ニホンオオカミ」に俄然興味をもった。
今にすると「なんであの『見狼記』録画しとかなかったんだろう」と思うけど、いや2012年当時は録画機器もってなかったしなあ。 NHKのオンデマンドのリスト探しても「見狼記」は無かった。

この本「ニホンオオカミは消えたか?」は「見狼記」の内容もふまえて、登場人物にも取材を重さねた渾身のルポタージュ。 面白かった。 
学術的な分類の情報、多くの文献、それに実に多くの人物を訪ねよくぞここまで調査してくださった、と思う。
「ニホンオオカミとないったい何か」を明らかにして、それはほんとうに消えたのか、というまるでミステリー小説を読んでいるような展開と構成。

ニホンオオカミというマイナーな分野ながら、著者やこの本の登場人物たちのエネルギーと狂気にもにた情熱の一冊。

2017年8月14日 (月)

 WILD

映画 「 WILD わたしの中の獣 」   2016年ドイツ映画

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この映画は2月くらいに渋谷のUPLINKで観たものです。
DVD化されているので、興味あるかたは、ぜひ、、、あまり強くオススメはしませんが。。

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野生のオオカミに強く惹かれて、捕えて自宅に連れ込み監禁して、やがて心を通わせ、愛を交わすその先は、、、 

乱暴は言い方をすると「獣姦」を美しく映画にするとこうなりました、みたいな作品だ。

主人公が野生、獣になっていく過程がもうちょっと丁寧に描かれていたらよかったかな、と思う。
ストーリーの展開が唐突すぎます。

この映画のオオカミはCGなどはいっさいなく、本物のオオカミだそうだ、、!?

、、いくら調教してあるオオカミとはいえ、演じる俳優も命がけだったろう。
 でも「本物」じゃなければ、僕も観にいかなかったけど。

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主演の女優はどこかで観たなあ、と思ったら同時期に公開されたドイツ映画「アイヒマンを追え!」で同性愛のハニートラップを仕掛ける、女装した男の役、で出てた女優だった。
鼻の脇にでかいホクロがあって美人すぎないところがいいです。

あと、この映画はDVDでも、食事をしながら観るのは止しといたほうがいいです。

エゴン・シーレ水彩画集

「 エゴン・シーレ ドローイング 水彩画作品集 」

これは2003年に初版が出たものですが、今年になって手に入れました。

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28歳の生涯の天才画家の鉛筆、木炭、水彩などの紙に描かれた作品、そのほぼほぼすべて350点あまりをカラーで収録してある。 すばらしい。

参考図版シーレの油彩画と関連作家のクリムトやオスカー・ココシュカの作品も載ってます。

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この画集は作品が1年ごとの年代順に収録してあり、詳細な作品データや解説もすべて日本語に翻訳してある。 実にわかりやすい。でも作品図版のページの表記は英語だけで、それが洋書の画集みたいで絵が見やすくてよろしい。
ドローイング、水彩に限っていえばシーレ作品集の決定版といえるだろう。

、、、ただ230×170mmのサイズがもうひとまわり大きくてもよかったかな、とは思いますが。。

帯に書いてある「切り裂くような線」から最後期(といっても27,8歳の若さだが)太く丸みを帯びた線まで。 油彩を描くときと同じように荒々しい筆致をしっかり残した水彩の筆さばき。

和書なので品揃えのいい書店や、ヴィレッジ・ヴァンガードの美術書コーナーで時々みかけます。 シーレファンの方は一度手に取ってみるといいと思います。

 ベルリン・天使の詩




映画 「 ベルリン・天使の詩 」  1987年 ドイツ映画

監督: ヴィム・ヴェンダース  

ベルリン、、白状すると1997年くらいまで、僕はこの都市は東西ドイツの国境線上にあるものだと思ってました。 「ベルリンの壁崩壊」がたしか1989年だから、なんという世間知らずだったのだろう、と思うのだけれど。 実際にはベルリンは当時の東ドイツのど真ん中にある都市で、高い壁にぐるりと囲まれた「西ベルリン」は西ドイツの「飛び地」、、というのもちょっと誤解があり、正確にはアメリカ、イギリス、フランスの占領地。 公式には西ドイツでもなかったのだと。 そんなことを97年にたまたま飛行機で隣に座った日本在住のドイツ人から教わりました。 それまでなんて無知だったんだろう、といまでも思うけれど。。

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ヴィム・ヴェンダース監督の「ベルリン・天使の詩」。2006年のデジタルニューマスター版がブックオフで安く出てたんで購入しちゃいました。

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これは1987年公開映画なので、「ベルリンの壁崩壊」の2年前になる。

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ベルリンの天使は白い衣装の中性的な容姿の若者でも、可愛い幼児でもなく黒いコートを着たおっさんだった。。 ブルーノ・ガンツが演じている。

で、そのベルリンの街を見守る「おっさん天使・ダミエル」はサーカスで空中ブランコを舞う女性マリオンに恋をしてしまう。 マリオンに強く惹かれるダミエルは地上に降り人間になることを決意する。 ダミエルが人間になるまで、西ベルリンに生きる人々をモノクロの映像で映し続ける。 終盤ダミエルが翼を捨て人間になると映像はカラーに変わる。

映画の大部分がモノクロで「思わず息を呑む映像美、詩情溢れるメルヘン、そして哲学的思索が凝縮された」、、、つまり刺激的な映画が好きな人には「退屈」だということです。

                            ・

この映画のクライマックスは最終盤の「謎の長台詞」。 人間になったダミエルとマリオンがバーのカウンターで語りあっている。 横顔の画面からマリオンのカメラ目線ドアップの映像になってあの長~い台詞が始まる。

「、、、新月は決断の時。先の運命がわからなくても、決断する時。決断するの。私達、今がその時よ。私達の決断は、この街の、すべての世界の決断なの。 今、私達ふたりはふたり以上の何か、、、 私達は広場にいる。 無数の人々が広場にいる。私達と同じ願いの人々。すべてが私達次第。 私は決心している。 今しか時はないわ。 、、、、」

一部を紹介しましたこの長い台詞。映画を観ている観客に向かって言ってるようなこれは何なのか、ずっとわかんなかった。
 
昨年、「町山智浩の映画塾」を視聴して、あっと思った。こんな内容だった、と思う。
「、、、途中から、観客席に向かって語りかけているこの長台詞。 これは明らかに『壁を壊しましょう』と言っているんです。扇動している。この映画をどのくらいの東側の人々が観たのか、それはわかりません。でも実際に2年後にベルリンを分断していた壁は崩壊した、みんなで動いたらあっけなく壊せたんです。」

なんか目から鱗、であります。 
それをわかったうえで観かえすと、ラストシーンの「壁」に向かって歩き出す老人の「乗船完了!」の最後のセリフもより深い意味をもったものに聞こえてきます。

 ひなぎく

映画 「 ひなぎく 」  1966年/チェコスロバキア/75分

監督 : ヴェラ・ヒティロヴァー (1929~2014)

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しばらく前ですが5月6日にTAMA映画フォーラムの特別上映会で観てきました。

いまでは入手困難なカルト雑誌「夜想」の35号「チェコの魔術的芸術」でこの作品の存在は10年くらい前から知っていたのだが、なかなか観る機会がなかった。

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たまたま新百合ヶ丘のアルテリオ映像館でこのチラシをみかけなかったら未だに観ていないだろうな。

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ファッション関係の有名人がこぞってこの作品を絶賛して「60年代チェコ・ヌーヴェルヴァーグの傑作」「ガールズ・ムービーの決定版」、、お洒落な女の子映画だと思ってしまいそうだけど、けっこうとんでもない映画でした。
これを観に来た着飾った女の子たちは、わけわかんない展開に茫然としてしまったのではないだろうか。 だって僕がそうだから。

姉妹と偽る「マリエ1」と「マリエ2」の2人のバカ女が男を騙して、嘘泣きしてとんずらしたり、好き勝手でハチャメチャな行動を1時間以上繰り返してるバカ映画だよ。

観ているうちに画面全体をハサミで切り刻んでこま切れになったり、モノクロから唐突にどぎついカラーリングになったり、実験的な効果音とかありとあらゆる映画手法を使うこの映画が50年前のチェコスロバキアで制作されたということに、後から衝撃をうけてしまった。

実際この女性監督は当時の政府に睨まれて、数年間活動停止だった。

とても「ガーリーでカワイイ映画」ではないだろ、と。
爆撃のシーンとかたぶん、皮肉や反体制の隠れた意味があるんだろうから、もう一度みたら僕の印象も変わるかもしれない。
なかなかその機会がないけれども。。




バベルの塔

40年ほど前だが「バビル2世」というテレビアニメがありまして、漫画家・横山光輝の原作で
ストーリーや主人公の顔も今となってはうろ覚えなのだが、なぜか主題歌の歌詞は憶えていて、ていうか今でも口ずさめるほどだ。 アニソンってやっぱりすげえなあ、と思う。
で、悪の帝王「ヨミ」と戦う超能力少年バビル2世の拠点が「バベルの塔」なんであります。

5000年前に地球に不時着した宇宙人「バビル」によって建設され、超高性能コンピューターで管理され、人口砂嵐を起こしてその場所を人類に知られていない「バベルの塔」!
、、、それが僕にとっての「バベルの塔」の最初のイメージだ。

なのでずーっと後になって、ブリューゲルやその他の西洋絵画で「バベルの塔」があるのを知ってほんとうに驚いた。 「バベルの塔は実在していたのか!?」と、、、違うって。

                           ・

そして、「バベルの塔」展! 

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僕は5月に観に行きました。上野の東京都美術館での展示は7月2日で終わってしまったけど、そのあと7月18日~10月15日まで大阪の国立国際美術館で開催中だ。 その後の巡回はないようなので日本で観るなら大阪がラストチャンスだな。

ブリューゲルの「バベルの塔」。 生涯3点描いた内、現存しているのは2点。今回来日しているのはオランダの「ロッテルダムの塔」。 もうひとつの「ウィーンの塔」よりサイズはちいさいが隅々まで完成度は高いです。

たぶんブリューゲルの油彩作品の実物を観るのは今回が初めてだ。

これはすごい。 絵のサイズは599×746mmと意外と小さいが、塔と風景の巨大なスケール感と恐ろしく緻密な描写。蟻のように蠢く人間たち。 

旧約聖書のとおりなら、神の怒りに触れて壊されてしまうことを暗示するかのような、なんだか不穏な雲がたちこめつつある。

この「バベルの塔」を日本で観られることは、おそらくないだろうから東京展が終わるまえにもう一回くらい観にいけばよかったかな~とか、ちょっと後悔してます。

                           ・

追記: 「バベルの塔」展には「奇想の画家」ヒエロニムス・ボス(ボッスと表記されてる場合もあり)の油彩作品2点「放浪者」と「聖クリストフォロス」が初来日してます。
展覧会ではこの3点だけをじっくり時間をかけて観た。 それだけで充分満足でした。

                           ・

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展覧会限定グッズ。 「バベルの塔のスノードーム」。
これは何かとお世話なっている詩人の友人にプレゼントした。
彼はスノードームのコレクターだと知っていたので。 僕よりさきに「バベルの塔」に行ってなかったようでホッとした。

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ブリューゲル研究家として有名な森洋子氏の新刊「ブリューゲルの世界」が出版された。
が、僕の好きな「イカロスの墜落」は未収録。 ご本人の解説によると、この作品はブリューゲルの真作ではないというのが、最新の研究によって判明したそうで、多くの「イカロスファン」を落胆したという、、、 僕もがっかりです。。

2017年5月 5日 (金)

BLUE IN THE FACE

BLUE IN THE FACE   ブルー・イン・ザ・フェイス   1995年作品

「ブルー・イン・ザ・フェイス」。 この映画は「スモーク」の続編というより姉妹編、最近よく使ういいかただと「スピンオフ」作品といえる。

「スモーク」の最大の功績は「ブルー・イン・ザ・フェイス」を生み出したことだ。

「スモーク」のオーギー・レンの煙草屋という設定と可能なキャストをそのまま使い、即興の演出と演技と台詞で2本目の映画を作ってしまった。

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この映画、DVD化されてはいるものの、あまり流通されてないみたいでレンタル店にはほぼ取扱いが無い。 ネット通販で見つけても、高額だったりするのだが、たまたま安く出ていた時があって、購入しちゃいました。 俺は持ってるぜ。

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DVDのケース裏面にこの映画の内容紹介があるけど「大好きなたまり場の煙草屋を守るために、隣人たちが立ち上がる」というのは嘘です。
「隣人たち」は誰も立ち上がんない、です。

「顔が真っ青になるほど(Blue in the Face)、喋り続ける」というコンセプトのとおり、さまざまな有名、無名の人々が10分のテイクのなかで好き勝手なことを喋っている、それだけの1時間半だ。

ブルックリンの街や人々への想いのたけを。 
ロサンゼルスに移転してしまったブルックリン・ドジャースへの哀切の想いについて。
ベルギー・ワッフルについて (ベルギー・ワッフルのブームはこの映画からだという説があるがホントか?)

煙草をやめる決心をした」常連客のボブ(映画監督のジム・ジャームッシュ)は人生最後の1本を味わいにやってくる。
かつてのブルックリン・ドジャースの偉大なプレイヤー、黒人初の大リーガー、ジャッキー・ロビンソンの幽霊(?)が現れ、あのマドンナは「踊る電報配達の女」としてほんの一瞬、数十秒の出演だ。

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この映画、好きなんだけど、一か所だけ気にいらないシーンがある。

それは「最後の1本」を吸い終えたボブ(ジム・ジャームッシュ)がその吸殻を灰皿に落とすところ。 煙草を高く掲げて「東京上空500m、、!」といってボトリと落とす。 
、、、つまり吸殻をB29の東京大空襲に見立てているんだな。 このシーンは残念。
もともとシナリオにあった台詞なのか、たぶんジム・ジャームッシュの即興の可能性が高い。
この人親日家だと思っていたのだが。
ていうか、この映画「日米合作」となっていて日本人スタッフもけっこう参加してて、よくこれでOKだったなあ、と思う。

そんなわけで映画「Blue in the Face」には満点を付けられずにいる。

                          ・

 ブルックリン・ドジャースについて

僕が「国民栄誉賞あげたい人No.1」の野茂英雄氏がかつて在籍した「ロサンゼルス・ドジャース」は1950年代までは本拠地がNYブルックリンでした。
というか「Dodgers(よける人)」というチーム名がそもそも「ブルックリンは人が多すぎて、
よけながらでないと歩けない」からついた名前だ。
ついでに小学生のころ誰もが、遊んだ「ドッヂボール」もボールをよける、という意味で同じ語源ですね。

2017年4月 9日 (日)

 Smoke デジタルリマスター版

映画 「 Smoke デジタルリマスター版 」  1995年日米合作映画

監督:ウェイン・ワン  脚本:ポール・オースター

2017年2月25日 新百合ヶ丘 アルテリオ映像館にて

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                 www.smoke-movie.com


不朽の名作「スモーク」ですよ。 公開されたのは1995年。
かれこれ22年くらい前の作品なのです。 
僕はたぶん、翌年の96年に今は無きミニシアター「関内アカデミー」で観ました。

それからビデオテープやDVDで繰り返し観て、台詞は字幕を読まなくても、ほとんど覚えているほどだ。

そして、この度の「デジタル・リマスター版」! すばらしい!

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↑ 左が今回の「デジタル・リマスター版」のパンフレット。
右が1995年の最初の公開時のパンフレット。恵比寿ガーデンシネマの「1周年記念上映作品」だった。

1990年 ニューヨーク・ブルックリン。
14年間、同じ時間同じ場所で1日も休まず写真を撮り続けるタバコ屋の店主、オーギー・レン(ハーヴェイ・カイテル)。
最愛の妻を銀行強盗の巻き添えで亡くしてから書けなくなった作家、ポール・ベンジャミン(ウィリアム・ハート)。
自分と母を捨てた父親を探す家出少年、ラシード。

この3人を軸に物語が展開されていきます。

見どころはいくつもあるんだけど、オーギーがポールに14年間撮り続けた街角の写真を見せるシーンがとくに好きだ。

 朝の8時、7番街と3丁目の角、 毎朝同じ時間、同じ場所でオーギーは写真を撮る。

「 俺の街角だ  世界の小さな片隅にすぎんが毎日いろいろなことが起きる

俺の街角の記録だ  同じようで一枚一枚全部違う 

よく晴れた朝 曇った朝 夏の日差し 秋の日差し  ウィークデー 週末

厚いコートの季節 Tシャツと短パンの季節  同じ顔 違った顔

新しい顔が常連になり 古い顔が消えていく

地球は太陽を廻り 太陽光線は毎日違う角度で射す  」

、、、、この詩のようなオーギーの台詞、大好きだ。

そしてポールは写真の1枚に亡くした自分の妻を見つける、、、

「 これを見ろ 見ろよ エレンだ 」

「 そうだ 出勤の途中だ 他にも数枚ある 」

、、そこでポールは肩を震わせ泣き崩れる、、

何度観ても、泣きそうになる名場面だ。

それよりも、「14年間、同じ街角、同じ時間の定点観測」という設定にやたら惹かれた。
どんなに単純なことの繰り返しでも、積み重ねればアートになるんだなあ、とか。

映画のラスト。 オーギーがポールに語る「クリスマスストーリー」。
最初はハーヴェイ・カイテルの見事な語りだけでストーリーを完結させて、さらにトム・ウェイツのひしゃげた歌声の「Inocent when you dream」をバックに、オーギーが語ったストーリーがモノクローム映像で流れるエンディングはいつまでも忘れられない。
たぶん、いままでに観た映画のなかでも,もっとも心に残るエンディングだ。

2時間足らずの上映時間に幾人もの人生を織り交ぜ、無駄なシーンも台詞も一切なく、絶妙に構築された傑作、「Smoke」。

 

 エゴン・シーレ 死と乙女 

映画 「 エゴン・シーレ 死と乙女 」  2016年/オーストリア・ルクセンブルク作品

2017年3月25日 新百合ヶ丘 川崎アートセンター アルテリオ映像館にて

                     www.egonschiele-movie.com

画家エゴン・シーレは20数年来、もっとも好きな作家のひとりであるけれども、日本では1991年に渋谷Bunkamuraで「エゴン・シーレ展」以来まとまった数の作品を観る機会は未だない。この時の展覧会は美術館所蔵の作品でなく、すべてウィーンのレオポルドさんという世界的なシーレコレクターの所有する作品だったのだけれど、何点かの油彩の代表作と、あとは水彩や鉛筆、チョークのドローイングが多かったけど、120点(!)の圧巻の展示だった。
ご覧になった人いるかな?

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これは、昨年ヴィレッジ・ヴァンガードで見つけて買ったシーレのドローイング・水彩作品集。
ちょっと値が張ったけど、400点以上の作品が年代順にオールカラーで収録されていて、年ごとに日本語の解説もあって内容充実な一冊。 
、、でももうちょっと高くてもいいから、サイズが大きかったらもっとよかったかな。

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人差し指と中指、薬指と小指をくっつけて、そのあいだを大きく広げる。 なんでこんな不自然な手のポーズにしたのかいまだによくわかんないけど。

                            ・

1890年に生まれ(ゴッホの没年)、15歳のときに父親が梅毒で精神を病んだ末に死去。
16歳でウィーン美術アカデミーに入学。アドルフ・ヒトラーは翌年、同アカデミーを不合格。
3年で退学。仲間と新芸術家集団を結成。 グスタフ・クリムトに才能を認めらる。
1912年、少女誘拐の嫌疑で逮捕、24日間の拘留。
1918年、3月に「ウィーン分離派展」で大成功を収めるも、その年の10月にスペイン風邪で死去。 妊娠6か月の妻も同じ病で死去。 

ざっくり書くとこのように濃く、激しい28年の生涯。
事実だけで充分映画向きなんである。

ちなみに「スペイン風邪」は1918年~1919年に世界的に大流行した、人類史上初のインフルエンザらしいです。 アメリカが発生源なのに「スペイン風邪」なのは情報源がスペインだとか、この病の流行で、第一次大戦の終結が早まったとか。

                            ・

エゴン・シーレを描いた映画はこれまでに何本か作られたらしい、観る機会がなかったが。
実現しなかったが、デヴィッド・ボウイがシーレを演じる企画もあった。

で、映画「エゴン・シーレ 死と乙女」。2016年、シーレ映画の最新作。

1月に渋谷のBunkamura ル・シネマで公開されたけど3月から新百合で上映されるのがわかってたので、2か月待ってました。

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映画冒頭で1918年の瀕死のシーレ。妹のゲルティが見舞いにくるが、シーレの妻はすでに亡くなっている。 そこから1910年、8年遡って回想の形でシーレと妹のゲルティ、モデルで愛人のヴァリー、妻になったエディットの人生を1918年まで描いていく。

事前にシーレの生涯と作品を知っていたというのもあるかもしれないが、ほぼ事実どおりのストーリーがすごく面白かった。

なにしろ、身勝手なシーレに振り回されても、どこまでも献身的にモデルだけでなく、マネージャー的に画商への作品の売り込みまでして、つくしていながらシーレに裏切られるヴァリーが可哀そうすぎるわ。
タイトルにもなっている「死と乙女」のモデルはヴァリー。 
映画では彼女の訃報を受け取ったシーレは絵のタイトルを「男と乙女」から「死と乙女」に書き換える。

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このヴァリーを演じた女優。 
誰かに似てるなー、と思っていたんだけど、、わかった!
Superfly の越智志帆さんでした。

                            ・

映画を観て初めて知ったこと。 シーレの妹のゲルトルーデ(愛称ゲルティ)は1981年まで87年の生涯だった。 
美術家、作家、音楽家、多くの才能を輩出した、いわゆる「ウィーン世紀末」の関係者が、自分と同じ時間を生きていたというのは、不思議な感じだ。

                            ・

グスタフ・クリムトの登場シーンもあった。 クリムトというとなんとなくずっと「身体の大きい人」というイメージだったのだけれど、「エゴン・シーレ 死と乙女」に出てくるクリムトはそれまでの、例えば映画「黄金のアデーレ 名画の帰還」のクリムトとかより、ずっとしょぼい、、小さな男だった。 シーレの才能に嫉妬する師匠なのだろうか。。

2017年4月 2日 (日)

 レオナルド・ダ・ヴィンチ 美と知の迷宮

映画 「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美と知の迷宮」

 2015年/ イタリア映画 / 82分

2017年3月12日(日) 川崎アートセンター アルテリオ映像館にて

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   www.davinci-in-labyrinth.com

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題名のとおり、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品についてのドキュメンタリー作品です。

おもに「円熟期」とされるミラノ時代の作品を中心に解説、解析していきながら、突如、俳優がルネサンス期の衣装を纏って出現して、レオナルドのパトロンや作品のモデル、弟子になりきって語り出す。

とくに「白貂を抱く貴婦人」のモデルとされるチェチリア・ガッレラーニという女性がまるで絵から抜け出たかのような衣装、髪型、顔もそっくりな女優が語りだしたときには僕的にはいちばんグッときた。

「白貂を抱く貴婦人」。この絵にはちょっと思い入れがあって、もう10年くらい前だけどこの作品がポーランドの美術館から横浜美術館に来たときに、この絵を繰り返し観るためだけに、横浜美術館の年間会員になって(たしか会員費¥6000)15回くらい観に行った記憶がある。

映画ではダヴィンチ本人は出てこなかった。もし、ダヴィンチが出てきたら「左利き」を演じるかどうか、ちょっと興味があったんだけど。

素行の悪さに「サライ (小悪魔)」と呼ばれた弟子が現れ、晩年の様子を喋り出したのは面白かった。

ナレーションや俳優達の語りはイタリア語で字幕ではなく、すべて日本語吹き替えだった。

劇映画だと俳優の実際の声で鑑賞したいという好みもあるだろうけど、このドキュメンタリーに関しては、レオナルドとその他同時代の作家の作品の精微な画像を字幕で邪魔されることがなかったので、吹き替えで良かったように思える。

 

2017年3月20日 (月)

真白の恋

映画 「 真白の恋 」 

監督:坂本欣弘  原作・脚本:北川亜矢子

出演: 佐藤みゆき 岩井堂聖子 福地祐介 山口詩史 杉浦文紀 及川奈央 長谷川初範

2017年2月26日 と 3月10日  渋谷UPLINKにて

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                                       www.mashironokoi.com

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いい映画です。 もう全力で誰にでもおすすめしたいぞ。 僕は2回観た。

いまのところ、都内と神奈川県内では渋谷のアップリンクでしか上映してないです。
横浜のジャック&ベティでは6月からの上映です。
ぜひとも新百合ヶ丘の川崎市アートセンターでもやってほしくて、その熱い要望を書いて、「ご意見箱」に投書してますが。。

富山在住の坂本欣弘監督の「故郷の富山を舞台に、家族をテーマにした映画をつくりたい」という一心で自主映画としてスタートした今作。 
脚本家の北川亜矢子のオリジナル作品。

主演は前項で紹介した映画「貌斬り」にも出演していた佐藤みゆき。
これが初主演映画。

 
ストーリーは富山で家族と暮らす、軽度の知的障害者、渋谷真白の初恋と彼女の成長。

オール富山ロケの撮影期間はほぼ11日間しかなかったそうです。
撮影から2年を経ての東京公開。

脚本も演出も演技もそれから画面に映し出される風景もすべて素晴らしく、無駄が一切ない。
主人公をとりまく応援する人、ただただ心配する家族、誰の気持ちも否定できない。初恋の相手とは何事もなく別れて、でも不思議と清々しい余韻。
そして画面いっぱいの立山連峰と朝日の美しさと。

ミニシアターはこういう作品をもっと推してほしいなあ、と思う。

アップリンクでは公開1か月を過ぎて尚、上映中。 ぜひ観てください。

                        ・

僕が1度目に観にいった2月26日は上映後に監督と出演者のトークがあった。

佐藤みゆきさんは「真白」な衣装で登場。

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僕は初めて、映画のトークショーで女優さんに「質問」をした。 役作りについて。

この映画にはパンフレットが作られていないのが、ちょっと残念。

いつも持ってるクロッキー帳にサインをしてもらった。 
映画のチラシでもよかったかな、とあとで思ったけど。

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3月半ばくらいになって、映画のサントラCDが発売されました。
こちらは、上映館と通販での販売。

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主題歌「真白の恋」が絶賛リピート再生中!

 貌斬り ~戯曲「スタニラフスキー探偵団」より~

 貌斬り ~戯曲「スタニラフスキー探偵団」より~

監督・脚本:細野辰興  出演:草野康太 山田キヌヲ 佐藤みゆき 木下ほうか 他

2017年1月8日 新百合ヶ丘 川崎アートセンター アルテリオ映像館にて

  http://kaokiri.makotoyacoltd.jp

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「長谷川一夫(芸名・林長二郎)顔斬り事件」 とは・・・

美男で評判だった林長二郎がスタジオから帰るところを二枚重ねのカミソリで頬を斬られ、日本中が騒然となった1937年の事件。 日本映画史上最強のスキャンダル。

                           ・

映画 貌斬り~戯曲「スタニラフスキー探偵団」より~
この映画のストーリーを説明するのは少々やっかいだ。
まず出演俳優達が演じているのは、劇団員。舞台俳優、演出家、スタッフ。
大入り満員の千秋楽。演目の「スタニラフスキー探偵団」は前述の「長谷川一夫 顔斬り事件」をモチーフにした映画化の脚本会議、、、 

「実際の事件をもとに映画を作ろうとしている人達の喧々諤々の会議」を満員の観客の劇場で演じて、その外側に映画「貌斬り」がある。 この時点でちょっとややこしいぞ。

開演間近の楽屋は混乱。出演俳優の一人が逃走し、主演女優が降板したいといいだした。 「演じることが怖い」。この台詞は作品のキーワードだ。

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映画「貌斬り」の中の劇中劇「ストニラフスキー探偵団」のなかで事件の当事者たちになりきって演じてみることで、リアルな仮説を導き出そうとする。これが劇中で何度も繰り返される「ロールプレイ」で、映画のなかに舞台劇があって、その中でまた別の人物を演じる。
演技が2重、3重になっていき、その境界がわからなくなっていく。

、、書いててちょっとわかんなくなりそうですが、ちょっと整理すると映画「貌斬り」の主演、草野康太は「俳優・尾形蓮司」を演じて尾形は「映画監督・風間重兵衛」を演じて風間は「俳優・長谷川一夫」を演じる。 山田キヌヲは「女優・南千草」を演じて南は「元女優のプロデューサー・蓋河久子」を演じる。

本番で使うのはシリコン製のカミソリのはずなのに、本物のカミソリにすり替えられている。

舞台劇を間近で観ているような臨場感。 同時進行の舞台裏の混乱と緊迫感。

この映画は2時間20分のストーリーを2時間20分で見せる「リアルタイム」の映画だ。
映画の中で時間が飛んで、「あれから何日、何年」と進んだり、過去に戻ったりしない。

上映時間と映画の中の時間が同じ「リアルタイム」の映画というと、ほかに「THE有頂天ホテル」とか「ゼログラビティ」とか「12人の怒れる男」とか「キサラギ」とかがあります。

この映画のなかと同じ量の時間を観ているというリアル感。

圧倒的で空前絶後の台詞でラストまでぐいぐい押しまくりながら、「演じる」ということの魅惑や狂気までも浮き彫りにしていく。

逃走した俳優の代役を務めた演出助手の青年に、山田キヌヲが演じる南千草が言う
「どうする? あなたもこっち側に来る?」

このように言葉で説明するのは難しいのだが、この映画は2時間20分、まったく飽きることなく、ぐいぐい押しまくる感じが面白かった。

興行成績的にはどうかわからないけど、面白かった。
もしDVDになったら、またじっくりみたい、と思う。

 不思議惑星キン・ザ・ザ

映画 「不思議惑星 キン・ザ・ザ」  

 1986年 旧ソ連 カラー・スタンダード・135分 監督:ゲオルギー・ダネシャ

2017年1月29日 渋谷UPLINK [見逃した映画特集2016] にて

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ソ連の映画っていうと「タルコフスキー」とかさあ、なんか深刻系な映画の印象が強いんだけど、「不思議惑星キン・ザ・ザ」。 こんな脱力系のSF映画があったことはこの作品を観るまで知りませんでした。 何なんですか、これ。 ほかに類似作が見当たらないです。

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モスクワ、冬。建築技師マシコフは帰宅するなり妻に頼まれ夕飯の買い物に街にでる。そこにバイオリンを抱えた青年ゲテバンに「あの人が自分のことを異星人だと言っています」と声をかけられる。 どうみても浮浪者にしか見えないその男は「自分は他の惑星から来た者で、自分の星に帰りたい。この星のクロスナンバーか座標を教えてほしい」と2人に話す。 そんな戯言を信じないマシコフは男が持っていた「空間移動装置」のボタンを押してしまう。次の瞬間、マシコフと青年ゲテバンは砂漠のど真ん中にワープしてしまう、、、

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2人が飛ばされてきてしまったのは、キン・ザ・ザ星雲のプリュク星だった。
奇妙な音を立てながら現れる釣鐘型の飛行物体。 出てきたのは小汚い男2人。
ちいさなショボい檻を出して妙な踊りを披露する。英語もロシア語もフランス語も通じず、何を訊ねても「クー」としか発しない。

マッチがこの星では異常に価値がある。1本の半分で宇宙船の加速機が買える。
これがあればどこにでも5秒で行けるそうだ。ポケットにあるマッチ2箱でなんとか地球に帰ることができないだろうか?、、、

、、、、、、というちょっと類似品のない、クーなストーリーなんですよ。 クー。

僕が観たときは1月29日。 アップリンクの「見逃した映画特集2016」だったのですが、昨年11月の公開時、一部の上映会場ではチケット購入時に受付で「クー」をやると、割引があったそうです。 クー割。

パンフレットの類は販売してなかったので、あとでAmazonで探して買いました。

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映画館での上映は終了してしまいましたが、リマスタリング版のDVDが販売されて、ちょっと品揃えのいいTSUTAYAあたりでは、何枚か置いてあります。
西友町田店には6枚くらいありました。

すべての科学的説明を無視したかのようなこの、脱力ゆるゆるSF映画。
80年代後半ペレストロイカから、ソ連崩壊の時代背景も思いつつ、ぜひご覧いただきたいぞ。 クー。

2017年3月12日 (日)

 エヴォリューション

映画 「 エヴォリューション 」 

監督&脚本 ルシール・アザリロヴィック / フランス、スペイン、ベルギー/2015年

                                 www.uplink.co.jp/evolution/

 2016年12月10日 渋谷UPLINK(アップリンク)にて

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「少年と女性しかいない、人里離れた島に母親と暮らす10歳のニコラ。その島ではすべての少年が奇妙な医療行為の対象となっている。『なにかがおかしい』と異変に気付き始めたニコラは、夜半の出かける母親の後をつける。そこで母親がほかの女性たちと海辺でする『ある行為』を目撃し、秘密を探ろうとしたのが悪夢の始まりだった、、、、」

画家の諏訪敦氏がツイッタ―で紹介していたので観にいったのだけれど、よくわかんない映画でした。映画観てスッキリしたい、スカッとしたい人にはオススメできないなあ。

物語にクライマックスがない
正確な時代設定なく、国籍もわからないその島に少年と女性しかいないというシチュエーションがすでに不気味で、「誰がなんのために?」というのが結局わからず、映画がおわってももやもや感が残る。

「エヴォリューション(進化)」、、、というより倫理や道徳を超えた気味の悪さ。
この作品のコメントに一番多くでてくる単語が「悪夢」だ。

ただただ、すべてのシーンが絵画のように美しく、DVDになったらもいちどじっくり観てみたいとは思っているんだけど。

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「エヴォリューション」は質のいい紙と印刷のフライヤーが何種類も作られていてどれも飾りたいほど絵画のように美しく、残りわずかのようだったのを1枚づつもらってきました。

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2017年3月11日 (土)

 「男と女」 と 「ランデブー」

映画 「 男と女 製作50周年記念 デジタルリマスター版 」

      & 同時上映  「 ランデブー デジタルリマスター版 」

2016年12月11日 川崎アートセンターアルテリオ映像館にて

       www.otokotoonna2016.com

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「男と女」というフランス映画を観たことがない人でも、あの主題歌の ♪ダ~バ~ダ、ダバダバダ~、ダバダバダ~♪ のメロディはなんでか耳に残ってるという人は多いのではないだろうか。 僕もそうでした。

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ストーリーは同じ寄宿舎に娘と息子を預けている、それぞれ妻と夫を亡くした男女が知りあい惹かれあうという、ま、どうということないものなのだが、、この作品は主演女優の美しさと、流麗なカメラワーク、モノクロとカラーの大胆な構成、それからやっぱり音楽。

これであの甘美な♪ダ~バ~ダ、ダバダバダ♪のメロディー、イコール「大人の恋愛」というイメージで定着した感じだ。。 あ~俺も♪ダバダ♪してえー、、、って何を言ってるんだ。

余談ながらTBSラジオの「安住紳一郎の日曜天国」のコーナー「ゲストでダバダ」もこの曲からだ、たぶん。

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この「男と女 デジタル・リマスター版」ではクロード・ルルーシュ監督がその10年後の1976年に撮った短編「ランデブー」が日本初公開で同時上映された。

1台のクルマが夜明けのパリのど真ん中(凱旋門→コンコルド広場→オペラ座→モンマルトル墓地→サクレ・クール寺院)をアクセル全開でひたすら走り抜ける車内目線のワンカット映像、その間8分48秒!

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この「ランデブー」の映像の迫力がとにかく凄い!
路面やハンドルの振動までも伝わってくるような迫力に、思わず足が突っ張ってしまう。

「男と女 デジタル・リマスター版」のDVDを特典映像「ランデブー」で発売してほしい。

、、、とここまで書いたところでAmazonでちょっとしらべたら、5月2日にそのとおりの仕様でブルーレイ&DVDが発売予定らしい。

スクリーンで観た時の迫力は味わえないにしても、「ランデブー」の8分48秒のために、
俺買っちゃおうかなあ。

灼熱

映画 「灼熱」  2015年 クロアチア、スロベニア、セルビア

2016年12月24日 川崎アートセンター アルテリオ映像館にて

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「クロアチア紛争」・・・1991年~1995年、旧ユーゴスラビアからの分離独立とクロアチア人とセルビア人の民族対立巡って起きた紛争。

このクロアチア紛争をはさんで1991年、2001年、2011年の3つの時代の男女をいずれも同じ俳優たちが演じる。

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「時代を超えて紡がれる、ひとつの愛の物語」とチラシにはあるけれど、映画を観たかぎり、それとはちょっと違う。

10年ごと、それぞれ40分ほどの違う民族どうしの男女のエピソードは、同じ俳優が演じているというだけで、特に関連がない。

それで、話を重ねるごとにつまらなくなります。

、、、う~ん、「過去のしがらみに打ち勝とうとする、、、」というテーマが、ちょっとぼやけてわかりにくいんだな。 あと、「アドリア海の真珠」と称えられるというクロアチアの美しさもあまり画面から感じられなかった。

正直、「カンヌが絶賛!」というほどの感動は僕にはありませんでした。

                           ・

同じように、「旧ユーゴスラビアの民族紛争に引き裂かれる男女」を描いた映画に20年くらい前の作品だけど「ビフォア・ザ・レイン」という映画がある。
こちらはマケドニアが舞台。 この作品の3つのパートに分かれているのだが、ひとつのエピソードが微妙に次のストーリーに関わっていて、さらに3話目のおわり、映画のラストシーンが第1話のファーストシーンに繋がるという驚きの展開だった。
これは当地の問題に疎い自分にも面白かった。

しかし、この「ビフォア・ザ・レイン」もなかなかDVD化されずに、レンタル落ちのVHSテープを入手した翌年にDVDが出たりして(おいおい、、)
最近やっと品揃えのいい店舗のTSUTAYAにも並ぶようになりました。

2017年1月15日 (日)

年賀状

2017年。 今年の年賀状を先日やっと投函した、、、ていうかもう「寒中見舞い」なのだが。

ええ、毎年毎年こんな遅れてすみません。すみません。 
 と言ってみるものの、あまり気にもしていないのですが、、、

僕の場合、切手をわざわざ¥52+3の「お年玉くじ付き切手」を使ったりしているのだが、
その抽選日の1月15日までに出せばいいや、などという手前勝手な「俺ルール」があったりする。 「なんだよ、それ」と言われそうですが。。

でも、僕の年賀状でこの「くじ付き切手」の存在を知った人もけっこう多いらしいのですよ。
ハガキより発行枚数がずっと少ないので郵便局によっては11月中に売り切れてしまったりしますが。

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先に届いた友達からの年賀状に「今年はどんな酉の版画になるのか楽しみです」なんて書いてあると、なんか手抜きしちゃ不義理になるみたいなんですが。

、、、できました!

宛名面には「闘鶏」(一度見てみたいものです)の小品(の一部)を。

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こちらが裏面。 なぜか「月と鶏」。

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この版画の前に昨年の秋の「月の展覧会」用にに「オオカミ」の版画を刷ったんだけど、その作品で2版使ったうちの1枚目の版を「ニワトリ」の版画にもそのまま使った。

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    1枚目を刷ったところ。

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ここですぐに2版目を刷らないで、一度パネルに水張りして数日間乾燥させる。
で、裏面からハケで水分を与えて、まる1日おいてから2枚目の版をする。

なんでそんな面倒くさいことをするのかというと、続けてすると細かい線が滲んだようになってちょっと弱いからです。

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「ニワトリ」だとやっぱり「月」じゃなくて「朝日」かなあ、とも思ったが、まあそのへんはどうでもよろしい。

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ところでこういった銅版画の技法、また材料的なことは、この本に多くを教わった。

  「銅版画のテクニック」 深澤幸雄 著

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銅版画家の深澤幸雄さんが、その長い制作活動のなかで習得し、また自ら編み出した技法や、材料、道具についての知識を惜しげもなく記した本。

僕は版画を学校などで教わったことがないので、この本はある意味バイブルでもある。

ニワトリの版画を描画している最中の今月5日、その深澤幸雄さんの死亡記事が朝刊に載っていた。 

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92歳。 老衰。 大変な時代を生き抜いて制作を続けてこられて、大往生だと思う。

僕はただの一度も面識がなかったけれども、、心よりご冥福をお祈りいたします。

2016年12月26日 (月)

ジャニス: リトル・ガール・ブルー

映画 JANIS:LITTLE GIRL BLUE /  ジャニス:リトル・ガール・ブルー

  2015年 アメリカ映画  監督:エイミー・バーグ

2016年12月24日 川崎アートセンター アルテリオ映像館にて

20年くらい前のことだが、とある土曜日に仕事で運転中のラジオから、ジャニス・ジョプリンの歌が流れた。曲は「Me And Bobby McGee /ミー・アンド・ボビー・マギー」。 
そのラジオ番組はシンガー・ソング・ライターの鈴木祥子の特別番組で2時間半ほどの番組のなかで、自身の曲や敬愛するミュージシャンの曲をかけながら、その中でジャニス・ジョプリンを紹介する。
鈴木祥子さんがジャニスの27歳という短い生涯と音楽活動について語ったあと「ミー・アンド・ボギー・マギー」が流れる。ともあれそれが僕がジャニスの声を聴いた最初だったと思う。

そのしゃがれたような声は衝撃的でさえあった。英語の歌だからもちろん歌詞の内容はわからないけれど、「ミー・アンド・ボビー・マギー」というタイトルと曲調、ジャニスの歌いっぷりから僕が最初に想像した内容はこんな感じだった。

「私とボビー・マギーはかつて一緒に過ごしていたけれども、いまは離れ離れでそれぞれの道を歩いている。 けれども、あの日々はけっして無駄ではなく、いまでも私たちのなかで輝いている・・」 
みたいなことを歌ってるんじゃないかな、と思って聴いて、その後ジャニスのCDを買って訳詞を確認したら、だいたいそんな内容だった。 「歌」って言語がわからなくても、やっぱりその思い、とか心が伝わるもんなんですね。

それからしばらく経って、大船の「鎌倉芸術館」で友部正人の「30周年記念コンサート・あれからどのくらい」があった。途中休憩をはさみながらの3部構成、約4時間の長いライブ。
2部と3部の休憩の間、ロビーでコーヒーを飲んでいると、すぐ近くから聞き覚えのある声が。
ふと横を向いたらすぐ隣に鈴木祥子さんがいた。 話かけなかったけど。

                            ・

、、、というわけで、長い前フリでしたが、昨日24日に映画「ジャニス:リトル・ガール・ブルー」観てきました。

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この映画なプロのシンガーとしての実働約4年(!?)のジャニス・ジョプリンのドキュメンタリー映画です。   

                             http://janis-movie.com/

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生前の本人のライブ、レコーディング、インタヴュー映像と、当時の彼女を知る人々の証言、それから初公開された、家族に宛てた手紙の数々で構成されている。

その手紙を朗読するキャット・パワー(シンガーらしいがよく知らない)がいい。ジャニス本人が朗読しているのかと思っちゃったよ。

「リトル・ガール・ブルー」。 ジャニスの歌った曲名だけれど訳すと「少女の憂鬱」か。
映画本編のなかのある人の証言に「ホテルに彼女を訪ねていったら、途方にくれた少女の顔だった、、、」という印象的な言葉があったので、ここからタイトルにしたのかもしれないです。

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初めて観るジャニスのライブやレコーディングの映像の圧倒的な声の力。

それらはとても魅力的でそれだけでも観る価値はあるけれども、この映画の中では、容姿にコンプレックスを抱えた暗い少女時代から綴られている。

誰からも相手にされなかったハイスクールと、シンガーになってからも孤独を酒とクスリで紛らわせて、結局それがもとで突然27歳の若さで逝ってしまうんだけれど。

きっとこの人はだらしのないとこも、いっぱいあったんどろけれども、たった実働4年ほどの音楽活動で「音楽史上最高の女性スター」、「女性ロックのアイコン」になった。

50年、60年生きても人の心になにも残せない人がほとんどだというのに、いなくなってもパワフルな歌声で元気づけてくれる彼女はやっぱり素敵だと思うのです。

                         ・

映画本編が終わって、エンドロールといっしょに、有名人のジャニスへのコメント映像が流れた。

、、、ジュリエット・ルイス! なんか久しぶりに見た気がする。彼女の出演作では「ギルバート・グレイプ」が一番好きです。

それからジョン・レノンとオノ・ヨーコ。 ジョンが凶弾に倒れたより、ジャニスの死のほうが早かったというのが、いまさらながら意外に思ったり。

ジョン・レノン「僕の誕生日プレゼントにと、ジャニスが歌を録音したテープを送ってくれたんだ。それが届いたのは彼女が死んだ後だった。」

 

2016年12月19日 (月)

SION ACOUSTIC TOUR 2016 代官山UNIT

 12月

♪ 12月 街はクリスマス気分 あちこちから思い出したようにジョンの声

   そして俺ときたらいつもこのごろになると

   なにかやり残したよな やわらかな後悔をする ♪

たしか1986年の冬にFMから流れてきたこの歌「12月」で「SION」というシンガーを知った。
なんという寂寥感の歌だろう、と。 「ジョンの声」がジョン・レノンのことだと気付いたのはずっと後のことだけど。

それから、約30年。 ほぼすべてのアルバムをリアルタイムで聴いてきた。
人生の半分以上の時をSIONの音楽を聴いてきたことになる。

メジャーデビュー30周年の今年。 
30年、長期の活動停止期間もなく、その時代、時代の歌を書き、ほぼ毎年アルバムを発表しているが、一般の知名度はあまりにもない。 でもその音楽は唯一無二のSION。 御年56。

、、、かっこいいです!

                            ・

2016年 12月17日(土)

 SION アコースティックLIVE 2016  代官山UNIT

年末恒例のSSK(SION+細海魚&藤井一彦)のライブに今年も行ってきた。

メンバーは細海魚(キーボード・アコーディオン)と藤井一彦(Aギター)の2人だけなのだが、ドラムやベースもいるんじゃないかと思うほどの分厚い音!
年々進化している感じだなあ。

この夜の記憶を辿って、セットリスト(演奏楽曲)はだいたいこうだったと思う。

 (順不同です。 以下の楽曲を歌ったけど曲順はちょっと自身ないや)

              夜しか泳げない

              午前3時の街角で

               バッカス

             まるで誰かの話のようだね

             洒落た日々から遠く離れて

               デジャビュのあやとり 

               追っつかない

               ひとり綱引き

              Hello ~大切な記憶~

                 春よ

             お前の空まで曇らせてたまるか

                ONBORO

                      Hallelujah

                                  ノスタルジア

           後ろに歩くように俺はできていない

              彼女少々疲れぎみ

                 jabujabu

                  風来坊

              マイナスを脱ぎ捨てる

                  住人

               曇り空ふたりで

                  12月

              ウイスキーを一杯

                  俺の声

                 お前がいる

           今さらヒーローになれやしないが

              そして あ・り・が・と・う

特にすばらしかったのは、「ノスタルジア」ですね。 この歌は何度も聴いてるけど、この日の歌はなんていうんですか、神ってた。 鳥肌がたち、目頭が熱くなる。。

ふんだりけったりで、言いことなんかあまりなかったような1年が終わっても、SIONの歌があれば、人生なんとかやっていけるんじゃないか、本気でそう思ったライブだった。

 ♪ 後ろに歩くように俺はできていない 今を行くだけだ たとえ亀より遅くとも

   それでも後ろに歩くようには 俺はできてないのさ ♪

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2014年のTシャツが安くなってたんで、買ってきた。ステッカーと。
 

 

2016年12月11日 (日)

東逸子 個展 

銀座のスパンアートギャラリーで画家、東逸子(あずま・いつこ)さんの個展を観てきた。

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                                        http://www.span-art.co.jp/

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新作はドイツの伝説の鳥「ヘルシニア」から触発された、水彩ベースのドローイングが10点前後なのだが、そのテーマに合うそれまでの銅版画作品も展示されている。

僕はこの作家の緻密で深淵なイメージの銅版画のファンで関連の書籍も3冊ほど持っている。 特にこの「シェイクスピア幻想 〈道化たちの夢物語〉」の挿画はすばらしい。

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展示の銅版画は「点描エッチング・アクアチント・ルーレット、、」などと技法も明記してあったので、マニアとしては制作過程や時間を想像しながら観て、それほど大画面でもないのに、ひとつひとつの作品の技術はもちろん、熱量に圧倒された。

なかなか作品を直接観る機会がなかった作家、銀座まで行った甲斐があった。

ちなみに、東逸子さんご本人にはまだ一度もお会いしたことがないのだが。

                        
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これは10年近く前にたまたま本屋で見つけて買った絵本「月光公園」。

展覧会は明後日、12月13日(火)まで。

2016年12月 4日 (日)

「 水野るり子の詩 皿の底の暗がり 」

書籍の紹介です。

「 水野るり子の詩 皿の底の暗がり 」

 著者 エドウィン・A・クランストン Edwin A Cranston

  訳者 グレーテルの会

 発行 株式会社 思潮社

 定価 本体2400円+税

この本はアメリカを代表する日本文学研究者の著者が、詩人の水野るり子さんの作品について書いた英文のエッセイ(2008年に出版)を和訳したものです。

、、、で、何故僕が詩歌関係の本を紹介しているか、といいますと。。

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実は、この本の表紙には僕の銅版画「Dodo」(2014)が使われているのでした。

以前、水野さんが購入してくださった、この小さい版画を詩人本人から「装幀に使いたい」というメールが届いたのが昨年の8月くらい。
「ほんとに僕の絵でいいのかなあ?」と思った(ていうか今でも思ってるが)けどもちろん快諾返信。

結局、当初の予定より1年くらい訳書の出版が遅れたようですが、昨日こうして手元に届いてちょっと感激している。 
「うわっ!、ほんとにドードーが表紙になってる! いいのか?!」 これが第一声である。

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装幀は思潮社が手掛けてくれたそうです。 
あの数多くの詩集や歌集を世に送り出してきた思潮社が。

そして扉には僕の版画の「車輪」が。 これも詩人所蔵の作品。

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素敵な装幀の本に仕上がっていてうれしい。 ありがとうございます。

内容は著者が自ら英訳した水野さんの詩(和訳ではもちろんオリジナルに戻っている)のひとつひとつの深層世界について語っている。 とても読みやすい本です。

                          ・

数年前の「ユニコーンの夜に」という詩集で、初めて僕の絵を表紙と扉絵に使ってくれた時、水野さんは本の発行日を11月30日にしてくれた。その日が僕の誕生日だと知っていたからだった。 
そしてこの「皿の底の暗がり」の発行日もまた「2016年11月30日」になっていました。

                          ・

とかく詩歌関係の書籍は部数が少なく、大きな書店でもなかなか見つけにくいもの。

ためしにAmazonで「水野るり子」で検索してみたらありました。
「12月14日発売予定 予約受付中」。

興味おありでしたら、ぜひよろしくお願いいたします。 

デザイン・フェスタVol.44 終了

、、、もう一週間経ってしまいましたが。。

11月26、27日にデザイン・フェスタVol.44が終了しました。

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ブースにお立ち寄りくださった皆様、さらに作品をお買い上げくださった方々、

 ありがとうございました!

ま、今回は売上的には非常に不甲斐ないことになってしまったのだけれど、、、
  、、、次行こう!次!

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カメレオンとか、トカゲの骨格とか、、勝手に「透明標本」に対抗意識メラメラと燃やして作ってます。 向こうは俺のことなんか知らんだろうが。

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、、、まだまだだな。。

さて、今年最後の出展はこちら。

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12月9日(金)~12月25日(日)

第11回 Art Galler 山手  2016 クリスマス展 

お時間ありましたらどうぞよろしく。   

  期間が長めなので、途中何度か追加納品する予定です。

 

2016年11月 6日 (日)

シーモアさんと、大人のための人生入門

映画「シーモアさんと、大人のための人生入門」

2014年・ アメリカ映画・81分  監督:イーサン・ホーク

 2016年11月6日(日) 川崎アートセンター・アルテリオ映像館にて

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本日11月6日(日)、あれこれ今月の予定を考えて「やっぱ今日観よう」と思い、15分ほど走って観に行った。 

イーサン・ホークって誰だったかなー、と思ったら「恋人までの距離(ディスタンス)」とその後の続編でジュリー・デルピーの相手役の俳優だ。
監督業もしているとは知らなかったです。

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この映画は84歳のピアノ教師、シーモア・バーンスタインを撮ったドキュメンタリー作品。

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ピアノ教師としてのレッスン・シーン、やわらかい声で適格に生徒に教える。
ピアノについて、音楽について、これまでの人生について語る。 友と語り合う。
始めから終わりまでそれだけの映画です。

大きな事件が起こるわけでもなければ、そもそも「クライマックス」がない。

しかし、シーモアさんの語る、やさしいあたたかく、深い詩のような言葉の数々。。

彼の語る「音楽」を「人生」に置き換えてもいいかもしれない。

僕は基本、説教くさいものは好まないのですが、この映画の80分の語りつくす言葉に、
もういちど観たいと思ってる。

パンフレットは品切れだった。まじか、残念。  近々再入荷の予定だとのこと。

                           ・

個人的には、「大人のための」っていう邦題じゃなくてもいいと思います。
 

「この世界の片隅に」徹底解説を聴いて

先日、11月2日(火)のTBSラジオの「たまむすび」の午後3時からの映画評論家・町山智浩の「アメリカ流れ者」。

いつもはアメリカ在住の町山さんが電話出演して、新作映画やアメリカのカルチャーなどについて話す(最近は大統領選)のだが、ただ今帰国中ということで、スタジオ生出演。

この日は11月12日公開のアニメーション映画「この世界の片隅に」について語った、というか大絶賛!

、、う~んちょっとこれは、正直映画も予告編すらも観てないのに感動しました。

さっそく、上映館調べて前売り買っちゃいました。

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いまTOHOシネマズとかの前売りチケットってカードになってて、裏面の番号入力してネットで座席予約できるようになってるんだな。 よう知らんかった。

さて、この日の「アメリカ流れ者」。 普段は番組パーソナリティーの赤江珠緒さんと山里亮太さんが町山さんの話の聞き役なのだが、この日は出演者3人ともが「この世界の片隅に」の試写を観ている、ということもあって大絶賛の嵐! ギリギリネタバレにならないところで語りつくすという名作回でした。はやりの言葉でいうと「神回」か。 もう古いか。

「今日は本年度レコード大賞、、じゃなかった、間違えた『町山大賞』の発表です! 『この世界の片隅に』! もう1億円もらってもこの映画にあげます!」 って、いきなり「レコード大賞、1億円」のワードぶっこんで皮肉ってるとこがさすがだなあって思った、しかもTBSの番組内で。。

とにかく怒涛の22分。 赤江さんが映画を思い出してなのか、時折言葉につまっていたようだった。
そしてこのトーク全体が映画で声優をつとめた能年玲奈の応援になっている。 

番組のあと、試しにツイッターで「たまむすび町山智浩」で検索してみたら、ほらやっぱり称賛の嵐じゃん。

この番組は明日いっぱいまで、「TBSラジオクラウド」かradikoの「タイムフリー」、それ以降はたぶん、YOUTUBEで聴くことができます。

興味がある方はどうぞ。僕は10回くらい聴いた。

11minutes イレブン・ミニッツ

映画 イレブン・ミニッツ   

2015年 ポーランド・アイルランド  監督 イエジー・スコリモフスキ

 http://mermaidfilms.co.jp/11minutes

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新百合ヶ丘での公開最終日の10月28日に観た。

ポーランドのイエジー・スコリモフスキ監督78歳の5年ぶりの最新作。、、といっても私はこの1本しか観ていないが。

「イレブン・ミニッツ」というタイトルどおり、ある1日の午後5時から5時11分までの「11分間」の物語。 

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映画の上映時間は81分ですが、映画の中を流れる時間はほぼ11分。

主要登場人物は11人。いわくありげな人物たちだが、その背景の説明はいっさい無し。

群像劇の11分間の同じ時間が場面や構図を変えて何度も繰り返され、5時を告げる鐘の音が3回聞こえる。

撮影の手法も通常の映画用のカメラから、監視カメラ、スマホ、CGまで、視点も次々に変わり、とても78歳のジジイ(失礼!)が撮ったものとは思えないな。

都会のバイク便の疾走と救急車のサイレンのはての11分後に何が起こるのか。

想像の斜めうえを飛んでいった!、、、とまでは僕には言えないけど驚愕のラストシーンでしたよ。 悲劇なんだろうけど、やっぱりちょっと笑ってしまう。

もう上映は終わってしまったみたいですが、DVDになったらそこに至るまでの仕掛けや、伏線を確かめてみたい。

2016年10月23日 (日)

三軒茶屋 アート楽市

、、、もう一週間経ってしまいましたが、、先週15,16日は三軒茶屋の「アート楽市」でした。

昨年は、一日目が雨天で出展しなかったのですが、今年は2日間とも、ほぼほぼ晴れ!

お立ち寄りいただいた方、作品をお買い上げいただいた方、ありがとうございました!

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2日目、16日はタイムリーな話題になるかとディランのTシャツを着用。
バッタもんじゃありません。 2010年3月の来日公演のオフィシャルですよ。
ディラン先生、売上にちょこっと貢献してくれました。
、、スウェーデン方面の賞をほんとに受賞するのかどうかは気まぐれな本人しだいですが。

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以前作ったものだけれど、特に気に入っていたものが5点くらい手を離れていった。

「サソリ」のモチーフはそもそもイタリアのスポーツカーブランドの「Abarth(アバルト)」に魅せられて作ったもの。(アバルトのエンブレムはサソリ)。
国内では(イタリア本国でも)稀少な本物のアバルトを所有している方が気に入って、購入してくださった。、、しばしクルマ談義、、Yさんありがとうございました!

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立ち止まったお客さんに「ジェリー・ガルシアに似てるっていわれませんか?」
と言ってみたら「知らない?それ誰ですか?」
「アメリカのロックバンドのグレイトフル・デッドのボス格の人ですよ。僕も詳しくないんだけどボブ・ディランとライブで共演したCDがあるからちょっと知ってるだけですが」
ちょっとまんざらでもない感じ。
「髭、もっと伸ばしても似合いますよ、お仕事に支障なければ」

小振りの「蜥蜴骨格」をご購入。 これは秘かに気に入っていたものなんだよ。大事にしてもらえよ。

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♪ ああ~ 幸せのー とんぼよ~ どこへ~ お前はどこへ~ 飛ーんでいく~ ♪

というわけで、何年か前に作ったトンボの硝子函が飛び立っていきました。

それをひと目で買ってくれた、杖を手放せないご老人が裕福なのか、細々と暮らしているのか、昆虫、とくにトンボに特別な思いがあるのか、もちろん何も知らないが(勝手にあれこれ脳内でストーリーを作ってますが、、)、 どこかでトンボの羽が美しい影を落としてくれているのをまた想像してみる。

                          ・

買ったもの。 気泡入りのグラス。 ¥500。いいのか?この値段で。

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あるお客さんのお嬢さんの着ていた長袖Tシャツがカッコいいので撮らせてもらった。

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「決して迷惑はかけませんから写真撮らせてください。 
顔は撮らなくてそのロンTだけでいいので}

「え!?、顔は撮らないの~?」

「じゃ、かわいい顔も撮っていい?」

「う~ん、やっぱシャツだけかな~」 、、、どっちなんだよー。

ヘッドホン柄のTシャツって時々あるけど、これはいちばんカッコいいな。

 We Live With Music  音楽とともに生きる、か。

これ着てヘッドホンしたい、とか。 教えてくれたけど、ブランド名忘れた。

                       ・

レザーカーヴィングの作家が着用していた自作、イベント自分用の「牛のアタマ」。

強く陽がさしていると15分ともたないらしいが、この時は曇りだったので、ずっと牛さん。

僕はとうとう彼の素顔を知らないのだった。

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2016年10月 9日 (日)

 古本ピクニック 雨天中止 

本日、武蔵国分寺公演で予定されていた「第1回 古本ピクニック」は昨日の時点の降水確率が50%以上ということで、中止になりました。 残念。

開催が11時からということなんだけど、午後からは晴れ予報なので実に微妙ながら、残念。

古本がメインのイベントですが、第1回ということで、正直売上ということはあまり期待できないかも~、という感じでしたが同じ好みの方がいたら会話できればいいかな、と。

昨日は中止決定まで、持ち込む本など選定しつつ、自分で手書きの販促用オビなど作っていました。

せっかくなのでその一部を、、、 壊滅的に汚い字だな、しかし。。

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それでですね、本の紹介書いてたら、ちょっと手放すのは惜しくなっちゃいました。

、、、、おいおい。

アリス=紗良・オット  ソロピアノ

昨日、10月7日は町田市民ホールでの「アリス=紗良オット ピアノ・リサイタル」に行ってきました。

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7月のある日にJRと小田急町田駅をつなぐ通路から見えるこの横断幕が目に入って、今回の公演を知った。

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すぐに、市民ホール電話してとりあえず1枚予約。
¥4500。 安い! ソロだからか。 オーケストラと共演とかだと¥10000超えちゃうものな。 
さて実は、町田市民ホールの公演は直接ホールで買うか、電話予約するときに、空いてる座席を自分で選ぶことができる。 イープラスとか、ぴあで買う場合そうはいかないが。
そしたら、奇跡的と言っていいでしょう、「最前列ど真ん中」が空いていた!
もちろん、その席を取った。
、、、コンサートの指定席に限らず、私の人生に於いて「最前列ど真ん中」は一度もない、、、

、、結局その「最前列ど真ん中」は母に譲り、1列ななめ後ろの席をもう1枚取ることになるが。

演奏曲は グリーグ : 抒情小曲集より (12曲)
       グリーグ : ノルウェー民謡による変奏曲形式のバラード 作品24

 ここまでを休むことなくメドレー形式で一気に演奏して、約50分。
 15分ほどの休憩をはさんで、第2部。

       リスト  :  ピアノソナタ ロ短調  
       
         、、、とアンコール曲はわからんです。

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この日は熊本から始まった全10公演の8つめになる。

前半の衣装はパンフレットにのってる黄色いドレス。

クラシックでは珍しく、最初にマイクを持ってちょっと長めの挨拶と、曲目の解説。
穏やかな語りの後に、やがてなにか憑依したかのような、演奏をまのあたりにすることになる。

後半は上下とも黒で手首までのロングTシャツ(?)みたいなのに、黒いスカート。
それで演出がちょっと良くて、といってもピアノ1台しかないんだけど、照明をすべて落として、真上からのスポット1本だけ。 闇の中、アリスの白い顔と手だけが浮かび上がるようにも見える。

そんななかで弾くリストは素晴らしく、ソナタといっても長い1楽章しかない、3つの楽章をひとつに凝縮したような長い曲。
緩急、強弱、熱と冷静。振幅の大きさ。 自分のような素人でも、この曲が巨大で高度だというのはわかるわ。

母に言わせると「ピアノのリサイタルって、だいたい途中で眠たくなるけど、今日のは一回もなかったわ。 」 と言わせるほどにダイナミック。

マルタ・アルゲリッチの若いころってこんなふうだったのかな。

終演後のサイン会は長蛇の列。
僕は会場で購入したものではなく、実は自宅から持参したCDのブックレットにサインしてもらった。 ま、2年間くらい大事に聴き続けたCDにサインしてもらえたというのも、感慨深いというか、感無量。

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このCDは2008年のものだから、8年前か。

現在の髪型の、なんていうんですか「鋭角的なカットのおかっぱ頭(うまい言い方をしらん)」がなんとなく山口小夜子みたいでカッコいいです。

サインしてもらったほんの数秒の間だったが、
「どうぞ、お身体をたいせつに。また機会があれば必ず聴きにきます」
「ありがとうございます!」

見た目の美しさと演奏もさることながら、人柄の誠実さも感じました。

 

2016年9月25日 (日)

「 風立ちぬ 」 原作本

こないだ書店で見つけて買いました。

「風立ちぬ 宮崎駿の妄想カムバック」

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3年前の宮崎駿監督の映画「風立ちぬ」。
その原作コミックがようやく書籍化されてました。

もとは「モデルグラフィックス」というプラモデル雑誌に連載してた漫画。
水彩の色彩も美しいオールカラーだ。

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映画の「風立ちぬ」とは趣がだいぶ違って、宮崎駿の妄想のストーリーと、飛行機やメカマニアっぷりが炸裂のエッセイのようなものがいっしょくたになったような内容です。
面白いです。 登場の男がなぜか皆、「紅の豚」みたいに「豚の鼻」です。

公開時、映画評論家の町山智浩さんがラジオで「宮崎駿の妄想とメカマニアの映画」と解説してたけど、それを裏付ける一冊です。

2016年9月22日 (木)

 「怒り」 小説と映画

* ネタバレ注意! この記事では公開中の映画「怒り」の内容や結末に触れています。
   映画を鑑賞予定の方はご注意ください。

先週、13日に吉田修一の小説「怒り」の上下巻(中公文庫)、合わせて2冊を買った。

9月17日の映画公開直前で通常の装丁の上に、映画仕様のカバーがかぶせてある。
ブックファーストでは、「怒り」1冊購入につき1枚、映画出演者の「栞」をプレゼントという企画でした。 主要キャスト、渡辺謙、森山未来、松山ケンイチ、綾野剛、広瀬すず、宮崎あおい、妻夫木聡の7枚から、2冊分で2枚選べると。
「期間限定だったら、上下同時購入で7枚くれたっていいじゃん」と言いそうになったが、そこはのみこんで「では、『宮崎あおい』と『広瀬すず』のをください」。

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5日ほどで一気に読み切った。映画を観る前だが読みながら出演者それぞれが脳内で動きだし、映像が再生される感じだ。 その時点で、このキャスティングはほぼ完璧だと。

                           ・

物語 : ある夏の日、八王子で若い夫婦が惨殺され、現場には「怒」という血文字が残されていた。犯人は顔を整形して逃亡を続ける。 そして事件から一年後、千葉と東京、沖縄の離島に素性と過去の知れない3人の男が現れた。

                           ・

たぶん原作者の吉田修一はこの小説の発想の元になったのは、千葉で起こった英国人の英語教師の殺害、逃亡のあの「市橋達也事件」じゃないだろうか。 犯人が顔を整形して逃亡していること、それから沖縄の離島に身を潜めていたこと。 そう思って読んでいたら、映画のパンフレットの談話で吉田さん本人がそれを明かしていました。 それで「やっぱ犯人は沖縄の離島かなあ」と上巻読んでるときから思ってたんだけど。

                           ・

千葉と東京と沖縄、それから事件を追う2人の刑事。 彼らの物語がだいたい15ページくらいの短い章ごとに交互に進んでいく。 この構成の読みやすさもあって、電車の移動時間のほぼすべてを使って読んだ。ぐいぐい読ませます。面白い。

                           ・

3つの土地で展開される物語にはそれぞれ関連もない。犯人は下巻で明らかになるが(予想どおりだった)、最初の「八王子夫婦殺害」の行動の動機がよくわかんないままだ。
いや、そもそも衝撃的は血文字の「怒」の意味がわからん。 、、て、私が人並み外れてバカなだけでしょうか?

この作品の胆(キモ)は実は「犯人捜し」だけではなくて、その3人の男と出逢った、人達の猜疑心。 信と不信。 そして愛する人を信じきれなかった、裏切ってしまった自分自身への「怒り」。 それから信じていた人に裏切られた、殺すほどの「怒り」。。
、、、う~んでも犯人については、「怒」は映像が浮かぶほどのインパクトなだけに消化不良だわ。

                           
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で、映画。 NHKの大河ドラマと朝ドラの主役経験者をずらりと並べたような、贅沢なキャスト。 ギャラの総額どのくらいなんでしょうね。どうでもいいけど。

千葉編の元風俗嬢の「愛子」役の宮崎あおいは、原作の「愛子」が「ぽっちゃり」のせいか役作りで7キロ(!)増量したそうだ、、ってそれでも細いだろ、と。 いや増量とかルックスが原作と違うとかよりも、この役は宮崎あおいしかないわ。見事でした。 原作のこの場面、「女の泣き声は尋常ではなかった。人間がここまで泣けるのかと思えるほど凄まじいものだった」。 千葉編の謎の男、松山ケンイチ演じる「田代」。作品のなかでは「田代」は偽名だが、僕は同姓なのでこいつが犯人でなければいいのに、と思ってたのでほっとした。

愛子「田代くんといっしょに暮らしたいの」、、、妄想するバカな俺を叱ってくれい。

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ひとことで言うと「充分満足ではないが、心に残る映画」。

原作のすべてを再現できるのは無理としても、何人かの人物が省略されていたり、エピソードのいくつかはカットされていて、やや展開に唐突感は否めない。とくに沖縄編。

それでもこの映画を、最近小説の原作ものの映画でやたら多い「前後編の2本観なきゃなんない」ものにしないで、ギュッと1本にしたのは僕的には高評価です。
ランニングタイムの都合とはいえ、2時間20分ほどにまとめたのは、きっとカットしたシーンもたくさんあったんだろうな、と思ったら、最初に完成させたのは「4時間」だったそうだ。
その「4時間ヴァージョン」が観てみたい。 「怒り 完全版」とかDVD化しないですかね。

原作と違って、ひとつのメインテーマのなかで、次々に3つの場面が切り替わるカットはいい。 「怒り」からのそれぞれ。「悲しみ」「希望」「絶望」「失意」からの「慟哭」。

ラストは沖縄の砂浜での、すべてを知った「泉」(広瀬すず)の絶叫で終わる。

実は原作の小説だとその後にエピローグ的な章があるのだけれど、そこをバッサリ切ってしまうのが、なんというか映画的。 
穏やかな最終章までいれるのは、なんとなく2時間ドラマっぱいラストかなー、とか思いました。

                          ・

ところで、「日本で一番悪い奴ら」といい、「シン・ゴジラ」といい最近僕が観る邦画にはなんだかみんなピエール瀧が出ているな。 「瀧に呼ばれている状態」だ。

ピエール瀧の草野球チームの名前は「ピエール学園」というそうです。 関係ない。。

2016年9月13日 (火)

虹色のトロツキー

「機動戦士ガンダム」(、、いわゆるファースト・ガンダム)のキャラクターデザインを務めた
安彦良和氏は自身の原作コミックの「アリオン」の劇場版以降、アニメーションから遠ざかり漫画家として活躍していた。

安彦良和の漫画は神話や歴史を題材にしたものが多く、デビュー作の「アリオン」はギリシャ神話の世界、それから「我が名はネロ」、古事記から「ナムジ 大國王」「神武」「蚤の王 野見宿禰」、など。
圧倒的な画力と大河的なストーリー展開の安彦漫画。 
「アリオン」の最初のシーン、幼い主人公が遠景から駆けてきて、徐々にアップになる映像的なコマ割りや、白黒の闇と光のダイナミックな画面などは、アニメーター出身ゆえか。

「虹色のトロツキー」は昭和13年、中国大陸が舞台。 日本の軍人と蒙古人の母との間に生まれた青年「ウムボルト」の目を通して描かれる第二次世界大戦突入直前の大陸を描く全8巻の大作です。

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安彦良和氏はこの作品を描くにあたって、相当取材を重ねたようだ。
昭和10年代を生きた実在の人物が続々登場、実際の事件も描かれているが、主人公にまつわるストーリーはあくまでもフィクション。
「魔都上海」に到着した6巻では、あるパーティーで「李香蘭」と出会う。 この場面だけの登場だけど、表紙イラストにもなっている。いまさらながら「山口淑子」って、波乱万丈の生涯だったんだなあ、と思う。

父母の死の真相を辿りながらも、満州国軍に戻ったウムボルトは、「ノモンハン」に向かう。
昭和14年、満州とモンゴルの国境紛争が、日本とソ連の軍事衝突に発展した「ノモンハン事件」。これをラスト7、8巻に渡って詳細に描いている。 あまり耳馴染みのないかもしれないがこの「ノモンハン」にグッと括目して、見入ってしまう。

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ノモンハン事件。 これにはちょっとだけ僕個人にも関係している。

昭和14年に生まれ、平成元年に50歳で亡くなった僕の父は父親のいない私生児として生まれた。 「田代」というのは祖母の実家だ。
父が亡くなったあと、祖母はその人は満州に赴任して、ノモンハンで戦死した軍人だと打ち明けた。僕の父は生涯、自分の父親の名前も顔も知らなかったらしい。 知りたくないはずがないだろうと思ったが。
安彦良和が描いたより、実際の戦場はもっと過酷だったのかもしれない。

物語のラスト、生き残った主人公は自分の子を宿した女性のもとに向かおうとしながらも、戦場で力尽き、倒れてしまう。 これはいかん、涙腺決壊。 その場面に自分の祖父にあたる人の姿をみるようだった。

                          

 

 秋月展

 秋月展  

 9/10(土)~9/19(月・祝)  11:00~18:00 ( 9/19は17時まで)

 Art Gallery 山手  http://www.art-g-yamate.com

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、、という展示に銅版画を3点ほどですが、こっそり出品しています。

おヒマがありましたら、どうぞ。

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「月と狼」。 なんかベタなモチーフですまねえ。

今月になってすぐに、親戚の葬儀で新潟に行き、3日ずれたぶん出品も予定どおりにならなかった。 
、、、ええ、言い訳です。 普通の人は1週間くらい前には、全部出来てるものだと思います。 搬入当日までじたばたしているのはきっと僕くらいだ。

これは搬入に持って行ったけれど、やっぱり中途半端感。 今回だすのはやめた。

なんでドードーに猫が乗ってるのか。 いきあたりばったりで描くからこうなる。

来年くらいにどこかで出せればいいけれど。

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2016年8月28日 (日)

小国とヤンセン・もりそば

先日、神保町の老舗画材店「文房堂」に行った。
、、が、目当ての道具は品切れ、というか廃番で製造中止! 残念。

せっかく神保町に来たのだから、古本屋を見て歩く。

、、!いいもの見つけちゃいました、、

 「小国とホルスト・ヤンセン 1993年~1997年」 (限定200部・No.28)

新潟県小国町の小国芸術村で毎年メインイベントとして開催されていたホルスト・ヤンセン展の5年分の展示を1冊にまとめたカタログ。

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200部限定なのに¥1500だった。 安い。

このカタログ、文京区の和紙店「紙舗 直」が関わってるためか、紙質がよく、印刷もきれいで単色の作品もオールカラー。 そしてすべての作品の紙の種類と版画技法が記してある。
マニアはこういうとこが気になるのだ。

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ヤンセンは「直」が送り続けた和紙に版画を刷っていた。

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展示は時系列に沿っているわけではなく、毎年テーマごとに選ばれていたようだ。

あらためてヤンセンの狂気じみた制作とその分量に圧倒される。

                         ・

神保町の古本街にくるとやっぱり立ち寄ってしまう。

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絶品もりそば¥280、って「富士そば」より「箱根そば」より安くて、そして美味いです。

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 画本 宮澤賢治 「銀河鉄道の夜」 

8月27日は宮澤賢治の誕生日です。 今年は生誕120年らしいです。

先日11日に日比谷野音でのSIONのライブに行ったときに、すぐ近くの日比谷図書文化館でイラストレーターでデザイナーの小林俊也さんが手掛けた賢治童話のシリーズの展示があり、ちょうどいいタイミングだったので立ち寄った。

小林俊也のライフワークともいえる「画本 宮澤賢治」は当初「パロル舎」という出版社から出たのだが、そのパロル舎が2011年に倒産。 
そして現在「画本 宮澤賢治」シリーズは「好学社」が引き継いで出版されている。

なので、同じタイトル、同じ内容、同じイラストの本が「パロル舎」版と「好学社」版の2種類がある。 会場ショップでは本の販売もあったので、入手難になるかもしれない「パロル舎」の「銀河鉄道の夜」を買った。

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「銀河鉄道」は賢治童話のなかでも長いものなので、ページ数も多く値段も他の作品よりやや高い(¥1900)。 ちなみに好学社版は¥2300だった。
しかし、ほぼすべてのページにスクラッチ(引っ掻き)技法で描かれた絵が単色でもカラーで印刷されていて、絵と文字の配置バランスも、ページ毎に違う紙の色の選択も見事!

鉱物を愛した宮澤賢治に合った、硬質なイメージの大人の鑑賞に見合った絵本です。

日比谷図書文化館では、まだ販売してるらしいので、興味あるかたは問い合わせてみてください。

                           ・

ところで、パロル舎が倒産していたなんて昨年まで知らなかった。

コレクションしていたわけじゃないのに、気がついたらパロル舎の本は数年前からけっこう買っていました。 

これは一部。

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出久根育さんが挿絵を描いた「グリム童話・おかしな兄弟たち」もパロルだ。

いい本が多かったのにいまさらながら残念だなあ。。

手元にある本は大事にしようと思う。



2016年7月23日 (土)

赤い靴

 第9回 横浜 山手の坂道と風景展 Part2 7月22日(金)~31日(日)

  Art Gallery 山手  http://art-g-yamate.com

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ここ何年か参加させていただいている、この企画。 昨日から7月31日までです。

アクセサリーなど20数点出品してます。 お近くまでお越しの方はお立ち寄りくださいませ。

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 「 赤い靴 」

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♪ 赤い靴 はいてた 女の子  異人さんに つれられて 行っちゃった

 横浜の 埠頭(はとば)から 汽船(ふね)に乗って 異人さんに つれられて 行っちゃった

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ノンフィクション作家の沢木耕太郎さんは、幼いころから疑いなく「異人さん」という一節を、
「良い爺さん」と思いこんでいたそうだ。
 
「だから、この歌がどうして哀しげな調べをもっているのか理解できなかった。親切で優しいおじいさんに連れられていくならいいではないか、と。 
『良い爺さん』が『異人さん』だと知ったときにはさすがに驚いた。」とエッセイに書いている。

 横浜 山下公園の「赤い靴の少女像」

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この童謡にはモデルになった女の子がいたが、じつは異人さんと外国には行っていなかったそうです。 佐野きみ (1902-1911)という、わずか9歳で亡くなった女の子がモデルというのが定説。
満3歳のときに親の事情で、アメリカ人宣教師負夫妻の養女になった。
やがて夫妻が本国に帰国することなったが、その時「きみちゃん」は結核にかかっていて、
アメリカに連れて行くことができずに、東京・麻布の孤児院に預けられる。 
「きみちゃん」の立場にしてみれば2度も親に捨てられたことになるわけで、かわいそうすぎます。 
ただ実の母親は、娘のきみは宣教師と一緒にアメリカに渡ったものと思い込んでいて、東京の孤児院で亡くなったことは知らないままだった。
その話を直接きみの母親から聞かされた野口雨情が1921年に作詞したのが「赤い靴」、
というのが、定説ということになっている。 細かな部分で異論はあるらしいけれども。

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山下公園の「赤い靴はいてた女の子の像」は純粋に野口雨情の詩をモチーフにしたもので
、そのミニチュア版が横浜駅自由通路のちょうど真ん中あたりにあります。
こちらは小さすぎるせいか、気がつく人はあまりいないかもしれないが。

事実に基づく「きみちゃん像」が孤児院のあった麻布十番にあるそうです。
これは見たことないが、冬になると誰かがマフラーや帽子をかけてくれるというのが微笑ましいです。 





2016年6月25日 (土)

FAKE

映画 「 FAKE 」  2016年  監督・撮影 森達也

                                 www.fakemovie.jp

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「FAKE」を先週18日、新百合ヶ丘での初日に観た。

この映画、先に公開された渋谷のユーロスペースでは連日大ヒットしているらしい。

僕がしんゆりで観たときも満席だった。

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この映画はあの「偽造の作曲家」佐村河内守氏についてのドキュメンタリー映画。

映画のほとんどのシーンが佐村河内さんの自宅の室内でカメラを廻して、本人に直接取材をしている。
たぶん、佐村河内氏がこれほど長時間にわたって取材を受けている映像は他にない。

ゴーストライターをやってた新垣隆氏の告発のあと、髪をすっきり切って一度だけ記者会見をして以来、人前には出てないけど、、 ずいぶん髪も伸びてまた元の(というのもどうかと思うが)佐村河内さんになってる。

会話は基本、森達也がインタビューする内容を佐村河内さんの奥さんが、声で話しながら手話通訳して、それに対して佐村河内氏が声で話して答える。 
それを観ながら、やっぱり変だよ、その発声は聴覚障碍者のものじゃないでしょうよ、、って疑いながら観ている。

ほぼ室内のシーンばかりではあるけれども、何組かの来訪者との会話もそのまま収録している。たとえば年末の番組の出演依頼をもちかけるテレビ関係者。 
彼らは真摯な言葉で出演依頼をするが、佐村河内さんはそれを結局断る。 で、代わりに出演したのが、あの新垣隆さん。 「おぎやはぎ」が司会の番組で、やたらいじられている新垣さんと、そのテレビをみている佐村河内夫妻。。
ファッション雑誌の、ブランド服を着てポーズをきめている新垣さんの写真をなんともいえないような表情でみる佐村河内氏。 。

、、たぶん笑わせようとしてないんだと思うけど、なんか可笑しい。 なんか滑稽。ここ笑っていいのかなー、と思ったんだけど。
上映中、何度も笑いに包まれていた。

来訪者がくると、佐村河内さんの奥さんは必ず人数分のショートケーキを出す。
何度もショートケーキでおもてなし。

それから、何度もアップになる佐村河内さんちの猫。 
客人を品定めするような、蒼い目。 
映画も終盤になると、おなか見せて寝っころがって、、だいぶリラックスしとるね。

佐村河内守とはいったい何なのか。 なぜ新垣隆は森達也の取材を断ったのか。

やがて「話してはいけない、衝撃のラスト12分」に突入する。
ほろっと感動してしまった観客、 それを壊すかのような森達也の最後の質問。
、、 佐村河内氏がそれに答えようとするところで、、 
     え~!ここで終わりますか!?

FAKE ・・・ 偽造。 見せかけ。  この映画にも真実と、仕掛け、やらせがたぶんある。

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