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2010年9月 3日 (金)

ジャコメッティとともに

「ジャコメッティとともに」  矢内原伊作 著  1969年初版

アルベルト・ジャコメッティ(1901-1966)について。
20年以上も前から、このスイス人芸術家が好きとかいうより、尊敬している。
崇拝とかに近いかもしんない。

18歳の時に池袋のアート系の洋書専門店の「アールヴィヴァン」で
仏語の小さな作品集を買って毎日鞄に入れて持ち歩いていた。
まあ、そのころは(今でもだが)読めもしないのに洋書を持っているのが
なんかイイような気がしていた、とゆうのもある。 ようするにバカだったのだ。

ジャコメッティについて書かれた書籍、文章は多い。
が、作家本人によるものも含めてその多くが、観念的、哲学的、あるいは詩的で
難解なんである。 何書いてあるのかわからん。 私がバカなだけですかい。

で、この本。
法政大の教授だった矢内原伊作氏(1918-1989)が1954年から約3年間、
パリに留学した際にジャコメッティと知り合い、
やがて油絵のモデルをつとめるようになり、
アトリエでの制作の様子や会話を記録したものだ。

20100829_100829_210807 

本を紹介しといていうのもなんだが、この本は発行後しばらくして、
事情があって絶版になり入手困難であります。
と思いつつ、さっきAmazonで探してみたら¥20000くらいからあった。
安い! だって僕はその倍以上の額で入手したもん。
興味がある方がいたら今、チャンスですよ!

この本は本当にすばらしい。 僕のバイブルといってもいいくらいに。
過去2回、人から借りて読んだもののどうにも欲しくなり、
ネットで見つけて4年ほど前に北海道の出品者から送ってもらった。

内容はですね、1956年のパリ。
ヨーロッパの哲学の勉強のために2年ほど留学していた矢内原がジャコメッティと
知り合い、西欧や日本の芸術や文化について対話を交わし、やがて彼の油絵の
モデルをつとめるようになる。
そこから、ジャコメッティと矢内原の未知の領域に向けての冒険がはじまる。。

Img_1403

ジャコメッティの芸術とはいったい何だったのか。
絵画であるいは彫刻でめざしたものとは。
それを、約2ヶ月以上のあいだ1日も休まず、モデルを続けた矢内原が
アトリエでも制作や、会話の記録によって解き明かしてゆく。

「見えるがままに描く」。 
言葉にしてしまうと簡単なんだが、それを大変な労力をともなって試みるのです。

わかりやすくいうと、ある距離をもってモデルと対峙して
例えば顔の中心、鼻の頭に焦点をあてたときに頭や肩の輪郭はぼんやりする。
そのぼんやり具合とか、頭や体の構築、まわりをとりまく空・・・
を見えてくるとおりに、一切の先入観を捨ててキャンバスに写すということか。

おそらくこの本だけだ。 アトリエでのジャコメッティを克明に描いた書物は。
でも残念ながら絶版。 幻の本といわれているほどだ。

それはそうと矢内原さんの読みやすい、すばらしい文章をよむと、
あたかもジャコメッティの制作の現場に立ち会っているかのようだ。

Img_1404

アトリエでの狂気にも似た熱情と絶望と希望と。
30代の矢内原はしだいに彼のモデルをつとめる事は
それまでの2年間の欧州生活のすべてに匹敵する、あるいはそれ以上の
経験だと思うようになっていく。

たぶん、絵画とか彫刻とかに関係なく、 
自分で物を作るひとが読んだら感じるものがあるんじゃないかな。

登場人物もすごくて、サルトルやジャン・ジュネ、回想のピカソ、マチスのほかに
今年亡くなったシャンソン歌手の石井好子さんも何度かでてくる。
すごいなー、この人若い頃ジャコメッティと親交があったんだ。

1950年代のパリの下町のアトリエで
スイス人の芸術家と日本人の哲学者による
こんな壮絶な冒険が繰り広げられていたのかと思うと、
幾度でも感動をおぼえてしまう。

Img_1405

本編最後のパリの空港で日本に帰る矢内原とジャコメッティ夫妻の別れのシーン。
映画以上に胸を熱くする。

たまに本のことを書こうと思ったら、いちばんのものについて書いてしまった。
しかも絶版。
もうこれ以上のものはでてきません。

矢内原が記したジャコメッティ語録

「今日はずいぶん進歩した しかしまだまだ全部が嘘だ
見えている顔はこんなものではない
明日こそは 少しは正しく描くことができるだろう
早く明日になればよい!」

「私はなにひとつ求めない
死にものぐるいで仕事を続けることのほかは」

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